アニメ市場の現状と展望

年間200本が放送され、コンテンツ産業の中で大きな位置付けを占めるアニメ市場。矢野経済研究所の調査では、2016年度におけるアニメーション制作会社の売上高ベースの市場規模は、前年度比8.7%増の2,500億円になったと推計される。

アニメ制作本数の増加や配信コンテンツ売上が堅調に推移していることや、大手事業者の好調等から市場規模は拡大傾向と推計される。 2017年度は、主要事業者の業績予想などから堅調に推移するとみられ、前年比4.0%増の2,600億円になると予測される。

 

 

1クール=12話前後で発生する約2〜3億円強のアニメ制作コストを放送後のパッケージ販売で回収する委員会方式のビジネスモデルが、近年では映像配信事業の台頭により崩壊しつつある、とも言われている。
また「動画」工程の海外委託化やCG化により、日本の職人技である「原画マン」が育成できてないという後継者問題や、非効率で“ブラック化”しているアニメーターの待遇改善なども大きな市場課題となっている。

一方、アニメファンの嗜好に目を移すと、世代間で大きなギャップが生じている。
本稿執筆における調査では、若年層であるほど声優志向が強く、高年層はタイトル志向が強いという結果が明らかとなった。
アニメ作品の世界観は、タイトルや声優以外にも、監督・主題歌・原作者・制作会社など様々な要素により構成されており、アニメファンはそれぞれの嗜好から作品に接触し、気に入らなければ離脱する。例えば、熱心な原作ファンであってもアニメ作品の声優がイメージと異なった場合は、その時点で視聴をストップしてしまうことは当たり前の現象となっており、ターゲットに応じた要素を組み合わせて作品の世界観を構築する必要がある。

多様化するアニメファンの嗜好に応えつつ市場の課題を解決するには、収益ポイントをパッケージ販売から放送時点(LIVE)へと計画的に引き戻す必要があり、そのためにはペイ・パー・ビューに耐えうる作品を長期視点で制作しなければならない。また放送時点(LIVE)で充分なプロモーション準備をするにはシリーズ化構想=作品を育てる視点が不可欠であり、新シリーズ毎にユーザーを増やすには、長期的な顧客ロイヤリティ、所謂ブランディングが必要となる。

SNSや検索エンジン上の流通データを研究するXビジネス開発室は、「個別ブランドの集合体が統合ブランドを形成する」をポリシーとして2018年冬アニメの構成要素を解析した。アニメ作品を、①タイトル、②原作者、③制作会社、④監督、⑤主題歌、⑥主な声優、のカテゴリーに分解、それぞれがネット上で得た反響を抽出したブランディング評価を行い、ランキングを作成した。

 

2018冬アニメ構成要素別 Xランキング

1位 ポプテピピック(タイトル|ポプテピピック) 
2位 野島裕史(声優|刻刻)
3位 白鳥士郎(原作者|りゅうおうのおしごと!)
4位以降のランキング結果

 

1位:ポプテピピック(タイトル|ポプテピピック)

2位 野島裕史(声優|刻刻)

3位 白鳥士郎(原作者|りゅうおうのおしごと!)

 

圧倒的なポプテピピックのヒットとその要因〜アニメ産業の課題

前項の構成要素を集積して作品単位のスコアをみると、2018冬アニメにおいて「ポプテピピック」が圧倒的な存在感を示した。次点との量的差は5倍以上、指標別ランキングでも全て1位を獲得と、社会現象レベルのヒット規模となっている。ニコニコ動画で1月7日未明に公開された第1話は同サイト史上最速で100万回再生を達成、2018年1月14日の第2話配信後、人気ランキング首位を本作で独占し、全12話において100万再生を突破している。

同作がヒットした理由は、実験的な番組内容と近年のユーザー嗜好への絶妙なマッチングによるものだ。番組放送の特徴として、1回を前後半で主演声優を変えたのみのほぼ同一内容のものを放送する形式をとっているうえ、主な登場人物であるポプ子とピピ美の声優は、各話、各パートで全て異なる声優が演じており、さらにはその入れ替わりに大御所声優を多数キャスティングしたことが大きな話題を呼び、Twitterの「世界中」のトレンドに「ポプテピピック」がランクインした。

これほどまでのヒット作だが、斬新な取り組みと他作品をモチーフとしたパロディを多用するハイリスク・ハイリターン型であるため、シリーズ化は不透明である(プロデューサーはインタビューで2期や劇場版を否定している)。同タイプのヒット作である「おそ松さん」の第2期が振るわなかった(一説には【爆死】とも・・・)ことを考えると、「ポプテピピック」の熱量が次期シーズンまで継続するとは思えない。

 


アニメ産業の将来を考える上で比較対象とするべきはアメリカン・ドラマ、所謂アメドラ作品である。アメドラにおけるヒットの多くは、というよりもヒットと認定されるのは長期シリーズ化されている作品である。視聴者離れがおきない限りシリーズを継続することは常識で、世界観・シナリオを重視してシリーズを終了する作品が「異例」と扱われるほどである。

対して日本のアニメ作品は、ほとんどが1〜2クールでの完結を前提としており、原作が長期連載のヒットコミックであってもシナリオを切り詰めてその範囲内に収めてしまう。これでは作品が終了する度にファンが離れてしまい、プロモーションコストが肥大化する。そしてその結果、制作現場に割り当てるコストを切り詰めるという悪循環が発生する。

冒頭に述べた市場課題、特にアニメーターの待遇改善には、長期視点にたった作品作りとファンの育成をベースとして、実験作品や時流に乗ったヒット狙い作品を点在させるような、作品ポートフォリオの視点が必要である。