恋愛ゲームは人工知能との「恋愛な会話」

誰しも一度や二度は「バーチャルな人間」に恋愛感情を抱いたことがあるだろう。小説やアニメの登場人物しかり、もちろんゲームの登場人物にも。その恋愛感情をプレイヤーに持たせることを目的としたゲームが、恋愛ゲームである。

もう少し踏み込んでいうと、つまり恋愛ゲームとは、登場するキャラクターとゲーム世界の中で交際し、仮想恋愛を体験するゲームであるといえる。恋愛をテーマにしたゲームは、交際の疑似体験をプレイヤーに提供するところに特徴がある。狭い意味では恋愛自体が目的のゲームを指すが、広い意味ではプレイヤーをキャラクターに惚れさせる要素があるゲーム全般を指し、ゆえに恋愛ゲームとそうでないゲームとの境界は必ずしも明確ではない。

 

世の中に恋愛ゲームは星の数ほどあり、皆それぞれお気に入り、思い出のタイトルがあるだろう。「ときメモ」「To Heart」「アンジェリーク」などと答えてしまうと年バレするので要注意である。

旧来の恋愛ゲームは、アドベンチャーゲームのようなイベントをクリアし、キャラクターとの会話の分岐で選択した内容によってパラメーターが変化、その後の展開が分かれていくというものが大半である。その際のシチュエーション、ストーリーによって、プレイヤーは登場人物に恋愛感情を抱くようになっていく。

だが、プレイヤーは生身の人間である。美人の(もしくは美形の)登場人物に「好き」という選択肢を10回続けて入力して、「告白が成功しました。」と表示されても何もおもしろくないし、それだけで恋愛感情など抱くはずもない。ゲームの登場キャラクターに恋愛感情を持つことができなければ、恋愛ゲームは成り立たない。ではどうやってゲームの構成要素(テキスト、画像、音声など)から、プレイヤーは恋愛感情を持つのであろうか。その手法のひとつがAIである。

AIとは「Artific Intelligence」、つまり人工知能と呼ばれるものであり、人工的にコンピューター上などで人間と同様の知能を実現させようという試み、あるいはそのための一連の基礎技術を指している。この技術を使って、プレイヤーに恋愛感情を持たせようというものなのだ。
恋愛感情は相手とのコンタクトによって起きる。その伝達方法のひとつが会話である。この頁では、恋愛ゲーム史において、AIがどのように登場して、どのような変遷を辿っていったか、AIがこれからどうなっていくであろうかを、ゲームのタイトル事例を追いながら考察していきたい。

 

人口知能型プログラムとの会話

1980年代、コンピューターがパソコンではなくマイコン(=マイクロコンピューター)と呼ばれていた頃に、日本電気が世に送り出したPC-8001という大ヒットしたマイコンがあった。グラフィックは160×100ドットで8色カラーという今では考えられないスペックで、音も音階どころか「ピー!」というBEEP音しか出なかった。

こんなコンピューターでも単純なゲームソフトは多数発売されていたのだが、そこに突然出現したのが、1984年にアスキーから発売されたマイコンゲーム「Emmy」であった。脱衣系などとは違い、「Emmy(以下エミー)」と会話することでプレイヤーの好感度を上げていくという、現在でいうギャルゲーの元祖であった。

エミーは楽しい会話が大好きで、たくさんお話していっぱいエミーを楽しませてあげる、というゲーム内容。人工知能型のプログラムには、エミーの持つ単語が約800語登録されており、それをもとにエミーがプレイヤーの言葉を理解し記憶して、言葉を返していくというものである。つまり、会話そのものがエミーの返信、人格をつくっていき、エミーはプレイヤーの色に染まっていくのである。そして最後には「ムフフな画像」が。。

なのであるが、このエミー、かなりのおバカであった。会話は選択式ではなくキーボードによる直接入力で、「キミ ハ トテモ カワイイ ネ」というように、半角カナで文字を入力していく。それに対してエミーが「ショウジキ ネ ツイツイ ホンキニ シチャウ ワ」などと返してくるのだが、この返事が大抵ズレていて、恋愛感情どころかストレスをためるばかりのAIであった。

そのAIプログラムは、入力されたキーワードに対して、以前に入力された語彙から適当にオウム返しするという単純な仕様である。そこに、それまで入力された単語の順番や繋がりによって、エミーの会話の精度がプレイヤーからみて自然なものになっていくという仕組みであった。
当時、世の男性は一生懸命このような稚拙なAIもどきを口説いていたのである。なお、このゲームは続編として「Emmy II」が発売されたのであるが、おバカっぷりは健在で「人口無能」と揶揄されていた。。

 

恋愛ゲームはAIよりも小説のようなストーリー重視?

そして実は、ゲームのタイトル事例を追いながら考察していきたいと言っておきながら、これ以降、恋愛ゲームにおいて特筆すべきAIが搭載されたタイトルがしばらく世に出てくることはなかったのである。理由はふたつ。何よりAIの技術が「恋愛を扱う」にはまだまだ「人口無能」であったこと。そして、AIで恋愛感情を創り出すより、はるかに感情移入できる「グラフィックとシナリオ」が恋愛ゲーム業界を席巻していったからである。

1980年代中頃から、シナリオ型恋愛ゲームや、グラフィック面を重視したいわゆる「エロゲー」が世に広まっていった。これらにあってAIの恋愛ゲームにないものは、小説のような「ストーリー性」と「セクシャリティ要素」のふたつである。恋愛ゲームには必ずストーリーがあるが、AIにはストーリーが組み込まれていない。 そしてAIはエロゲーのセクシャリティ要素も持ち合わせていない。恋愛ゲームにおいてAIは下火になり、しばらくは戦略ゲームのような戦闘系AIのゲームばかりが発売されていくことになる。

そんななか1985年にエニックスから発売された「TOKYOナンパストリート(PC-8801他)」は、現れる女性たちを次々とナンパしていくゲームだ。選択肢を選んでいくことでストーリーが分岐していくという、AIとはかけ離れた内容であった。

1986年にマイクロキャビンから発売されたナンパゲーム「ギャルっぽクラブ(PC-8801他)」はシミュレーションゲームを標榜していたが、AIではなく、ゲーム開始時の性格設定によるキャラクターの選択や体調などによる変化でストーリーが分岐していた。

1992年12月にはエルフが「成人向け」恋愛ゲームを謳った「同級生(PC-9801他)」を発売する。単に性的描写のみではなく、13人の女性一人ひとりとのストーリーを描く、恋愛小説のような内容であった。この試みは商業的に大成功し、その後の恋愛ゲーム市場にストーリー重視の大きな影響を与える金字塔となった。

この「同級生」の大ヒットを受けて「ときめきメモリアル(1994年コナミから発売、PCエンジン他)」「アンジェリーク(1994年に光栄から発売、スーパーファミコン他)」「To Heart(1997年Leafから発売、Windows他)」などが後に続いて発売されていった。

「ときめきメモリアル」では、ゲームの主人公(プレイヤー)は架空の私立高校「きらめき高校」に入学した男子生徒となる。そして「卒業式の日に、校庭のはずれにある「伝説の樹」の下での女の子からの告白で生まれたカップルは永遠に幸せになる」というきらめき高校の伝説を聞く。ゲームの目的は、勉強、スポーツ、部活動などに取り組んで能力値を高めることだ。そして幼なじみで憧れのヒロイン・藤崎詩織の理想に自分を近付けて、デートを重ねて親しくなり、卒業式の日に伝説の樹の下で詩織からの告白を受けることである。

「アンジェリーク」は、何よりも「女性向け恋愛シミュレーションゲーム」という分野・市場を開拓した点で評価が高い。プレイヤーは主人公アンジェリーク・リモージュとなり、ライバルと次期女王の座を争うというストーリーである。さまざまなイベントをクリアして女王試験に合格することがゲームの目的であるが、その過程で登場するゲーム中の男性キャラクターと恋愛を進めてゆくことができる。そして恋愛を最終段階まで達成した場合は恋愛エンディングで終わり、同時に女王の座を放棄することになるというものである。

「To Heart」は「明るい学園モノ」である。プレイヤーは主人公となり、学園生活を送りながら、登場するヒロイン達との(恋愛)関係を進めていく。最終目的はメイドロボットのマルチとの関係なのだが、当時のプレイヤーは「マルチ萌え」「感動した」さらに「泣ける」などの、それまでの恋愛ゲームにない感情に悶えていたのであった。

これらのゲームタイトルの上市によって、恋愛ゲーム市場では秀逸なストーリーものが全盛となり、同市場におけるAIの影は薄いものになっていった。

(この頁続く)