同人誌市場の定義

個人及び同好の士を集めたグループ(サークル)が自費で出版する書籍・雑誌・ソフトウェア等全般について扱うこととする。本項では主に既存の漫画の二次創作物について言及しているが、オリジナルの漫画、小説・評論、同人ソフト等も市場規模に含めている。
市場規模ついては、同人イベントや同人誌(中古同人誌除く)取扱店、同人誌ダウンロードサイトにおける売上高を積算したものを市場規模として算出している。
尚、市場規模算出において、同人サークルからユーザーへの直売によって流通している物品については売上の把握が極めて困難なことから含めていない。また、古書同人誌取扱店やネットオークションで販売されている二次流通商品も除外している。

同人誌市場の客層

2016年9月に矢野経済研究所が実施した消費者アンケートより、「同人誌オタク」を自認する消費者は日本国内に約142万人と推計。年代は19歳以下:17.3%、20代:41.4%、30代:21.0%、40代:9.9%、50代:5.6%、60代:4.9%と、20代が市場を牽引。近年、マスコミがサブカルチャーを好意的に報道するケースが増えていること等から、同人誌に対するネガティブなイメージが薄らぎ、同人誌及び同人イベントの認知度が増している。こうしたことから、10代~20代前半ぐらいの若年層の参入がここ数年間で急激に増えているものと推察される。男女比は、46.3%:53.7%と推定。また、今年度より新たに調査項目として加えたオタク歴については5~10年未満が25.3%と最も多く、10年未満では62.3%を占め、平均では8.5年。
 

同人誌市場の客単価

「同人誌オタク」を自認する層が「同人誌」にかける金額(同人ソフト等も含む)は平均で年間17,512円。1万~5万円未満が27.2%と最も多く、次いで0円も25.3%と続いている。
 
同人誌は作り手が自由に価格を決められるため一概には言えないが、同人イベントの取材や関係者へのヒアリング等から、同人誌の相場は以下だと推定される。コピー本(原稿をコピーし、ホチキス等で製本したもの)が100~200円程度、モノクロの印刷本が200~600円程度、カラー印刷本が600~1,000円程度、同人ソフトについては1,000~2,500円程度となっている模様である(但し、ページ数やジャンル、版型等により大きく異なる。成人向け作品は全年齢向けよりも高めに価格設定されることが多い)。
商業誌と異なり同人誌は発行部数や入手ルートが限られていることが多く、「今買わないと買えない」という意識が強く働くため、1回のイベントや同人誌取扱店への来店で数万円単位を消費するユーザー根強く存在しているとみられる。

同人誌市場の構造

かつて同人誌は「アングラ」というイメージを持たれることが多く、1988~1989年に発生した東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件の犯人が「コミックマーケット」に参加予定であったこと等から同人誌即売会に対してネガティブな報道がされたこともあったが、アニメ・漫画がメジャーになるに連れ、同人誌人気や同人誌即売会の参加者数も拡大している。
既存の漫画やアニメ、ゲーム等の二次創作をテーマとした同人誌の大半は著作権・肖像権を無視したものであるが、同人誌の題材になることは原作の人気のバロメーターであり、また、プロ作家となる優れた人材が同人作家の中から見つかることもあるため、著しく原作のイメージを損なうものを除いて「ファン活動の一環」として黙認している出版社・商業作家が大半である。
作家について、同人作家のプロデビューや、プロ作家の同人活動が増えている。有名な例としては、「xxxHOLiC」、「こばと。」等人気漫画を創作している女性漫画家グループ「CLAMP」が同人サークルとして活動していたことや、「エマ」等を代表作とする森薫がかつて「県文緒(あがたふみお)」名義で同人活動を行っていたこと、人気アニメ「魔法少女まどか☆マギカ」のキャラクターデザイン等を手掛けた蒼樹うめが同人作家でもあること等が挙げられる。また、同人作品のアンソロジーを出版する出版社(例:㈱スクウェア・エニックス「ガンガンコミックスアンソロジー」等)も存在し、同人作家がこうしたアンソロジーを執筆するケースも多い。
反対に、プロ作家が同人活動を行っている(行っていた)ケースもあり、こうした作家の同人作品はイベント開始直後に完売となり、ネットオークションでも高値で落札されることが多い。「美少女戦士セーラームーン」の作者である竹内直子がプロデビュー後に同人作品の執筆を行っていたこと等がその例として挙げられる。かように、商業誌と同人誌の境目は流通ルートの違いを除いて曖昧になっている。
他にも、同人誌販売で生計を立てられるだけの収入を得ている「プロ同人」と呼ばれる作家も一部存在する。また、商業誌に寄稿しているものの、原稿料だけで生計を立てるのが困難、表現の幅を広げたい等の理由から同人誌の執筆・販売を行っているケースもある。とくに、ボーイズラブやアダルトゲーム等の作者は、同人活動による収入が商業誌・商業ソフトによる収入を上回ることも少なくない模様である。だが、大半の同人作家や同人サークルは、個人の趣味で創作活動を行っているため、ほとんど利益が出ないか赤字であるとみられる。
 
同人誌の流通ルートは、①同人誌即売会、②委託販売(実店舗・ネット店舗含む)、③インターネットを通じたダウンロード販売、④古書同人誌取扱店、⑤インターネットオークション、⑥同人サークルから個人への直売、の6つに大きく分けられる(矢野経済研究所推計の市場規模では、①~③を含み、④~⑥は除外している)。
同人誌即売会は全国で年間数百回行われていると推定され、特に、世界最大規模の同人誌即売会である「コミックマーケット」の近年の入場者数は3日間で延べ50~56万人規模となっている。他にも、多数の即売会が全国規模で開催されており、有名な同人誌即売会としては、「COMIC CITY」、「コミッククリエイション」、「コミックライブ」、「ガタケット」等が挙げられる。ジャンルや題材を絞った「オンリーイベント」も無数に存在する。㈲ケイ・コーポレーションや㈱ユウメディア等、こうしたイベントの運営によって収益を得ている事業者もあるが、各地で行われているイベントの大半は個人もしくは有志のグループである。「コミックマーケット」も、初期の頃は個人レベルで運営を行っており、現在は㈲コミケットが運営主体となっているが、実質的には有志の集団に近いのが実情である。
 
同人誌即売会の他、同人誌取扱店や同人誌ダウンロードサイトで購入する層も増え、委託販売やダウンロード販売市場も拡大している。有力な同人誌販売店としては、「コミックとらのあな」、「アニメイト」、「まんだらけ」、「K-BOOKS」、「メロンブックス」等が存在する。
ダウンロード販売を行う有力事業者としては、㈱エイシス(「DLsite.com」等を運営)、㈱DMM.com(「DMM同人」等を運営)、㈱アットリンクス(「デジケット・コム」運営)、㈱ハブロッツ(「Gyutto.com!」運営)等が挙げられる。ここ数年においては価格競争が激化しており、売上は確保しているものの、利益面では苦戦を強いられている模様である。また、リアル店舗を持ち、かつダウンロード販売を行う事業者も増加している。
同人誌は部数限定で出版されることが多く、特に人気作家の作品はプレミアが付きやすいため、転売(古書同人誌取扱店への売却、ネットオークションへの出品等)目的で購入する層も存在する。転売については「目的の同人誌を買いそびれたユーザーのために必要」という意見も一部あるが、本来のファンの購買活動が妨げられる等の理由から、批判的な見方をするユーザーが圧倒的である。また、「転売は控えてください」という趣旨の注意書きを自著に明記する同人作家も多く存在している。
 
本市場の特性としては、二次創作物が多数を占めることから、漫画・アニメにおいてキラーコンテンツが出ると市場の拡大幅が大きくなる傾向があり、「聖闘士星矢」(1980年代後半頃)、「美少女戦士セーラームーン」(1990年代前半頃)、「新世紀エヴァンゲリオン」(1990年代後半頃)がブームになった際、市場規模は大きく拡大した。
同人誌即売会でしか入手できなかった同人誌が、1980年~90年代頃から「まんだらけ」(運営企業:㈱まんだらけ)、「コミックとらのあな」(同:㈱虎の穴)、「K-BOOKS」(同:㈱ケイ・ブックス)等、同人誌取扱店でも入手可能になったことや、1990年代後半頃からダウンロード販売も行われるようになったこと等、流通チャネルの増加も当該市場の拡大に大きく寄与している。
 

同人誌市場のトレンド、トピックス

●二次創作等は非親告罪の対象外に

環太平洋パートナーシップ(TPP)協定に伴う著作権の扱いに関して、同人業界に多大な影響を及ぼすことが懸念されていたが、安倍晋三総理大臣は2016年4月に「二次創作は非親告罪の対象外とする」旨の発言をし、特段影響は受けない状況となっている。

●コミケに出店する企業が増加

2016年「夏コミ」の企業出店数は前年比121.3%の154社であった。
企業参加者は、従来アニメイトやメロンブックス、コスパなどの同人誌やアニメ業界のニッチな企業が主流であったが、近年は日本テレビ、文化放送などのマスコミ企業、小学館などの大手出版社が参加するなど、「コミケ」人気を受けて、同人誌には関連のなさそうな企業の出展もここ数年急増。今年2016年に新規出店した企業はユザワヤ、徳川美術館、杉本屋製菓等ある。企業側にとってはのべ50万人超の人々が一堂に集まることから、プロモーション効果が高いとの判断で出店が増加しているものとみられる。
 

同人誌市場規模

2015年度の同人誌(同人ゲーム等も含む)の市場規模は、前年度比2.4%増の775億円と算出された。その内訳は、即売会が同1.6%減の418億円、委託販売が同4.6%増の227億円、ダウンロード販売が13.0%増の130億円となった。ダウンロード販売が引き続き好調に推移した。
2016年度の市場規模は同2.6%増の795億円と予測する。その内訳は、即売会が同1.6%減の418億円、委託販売と同様の217億円、ダウンロード販売が8.7%増の125億円と予測する。
 
 
 

本稿の詳細データについては、下記調査レポートよりご入手いただけます。