本稿は2018年6月よりスタートした「Xビジネス ショートレポート」の一部を抜粋した記事となる。

フルサイズのレポートについては、こちらより閲覧が可能であるため、主力企業の動向などに興味がある読者は、ぜひアクセスしてみてほしい。

 

当市場解説の趣旨

難関私立中学(多くが中高一貫校)の合格のために各種教育サービスを提供する学習塾は、補習塾(例えば、「くもん式」、「学研教室」)のような月額数千円、年額でも教材費込みで10万円程度に収まるようなサービスと違い、小4生で年額50万円前後、受験学年の6年生で年額100万円以上の塾費が掛かる。
また、当然であるが、義務教育課程である中学校は、公立校であれば学費無料のところ、私立中学は安くとも60万円、高いところでは私立大学並みに100万円以上の学費が掛かる。
よって、難関私立中学に向け、高い塾費用を負担してまで、私立中学受験のための学習塾に通わせる層は、富裕層が中心となる。
中学受験専門塾の立地は、当然に、富裕層の集まるエリア、または、有名私立中学校が立地しているエリア、となる。
本章では、以上のような背景から、「富裕層向けサービス市場」の典型例として、「中学受験塾市場」を取り上げる。

 

中学受験 市場構造

当該市場に参入している事業者は、富裕層が集積している大都市部、または、有名私立中学が設置されているエリアに出店している。
関東でいえば、1都3県(東京、千葉、神奈川、埼玉)以外では、中学受験専門塾の需要
が殆ど無く、その1都3県の中でも、各塾の出店エリアは極端に偏っている。(東京都でいえば、足立区に殆ど教室が無い一方、世田谷区、横浜市等には密集している。)
関東以外では、名古屋、大阪、神戸、および、政令指定都市規模の人口密集地に中学受験専門塾が点在している、という状況である。
そもそも、地方都市には、1都3県と違い、私立中学が圧倒的に少ない、ということもあり、その受験準備をするための学習塾の需要も無い。
別の視点で当該市場見てみると、象徴するキーワードは「御三家」である。御三家とは、東京でいえば、東大合格者を多数輩出するような代表的中高一貫校の上位3 校を指し、男子校では、開成、麻布、武蔵、女子校では、桜蔭・女子学院・雙葉とされる。それらの名門校へ合格するための学習塾として、関東では中学受験塾の「御三家」があり、それが「日能研」「四谷大塚」「SAPIX」となる。
関西にも同様の構図があり、関西の超難関校、灘、甲陽、洛星が男子校御三家と言われる。(尚、関西には女子校御三家と言われる存在は無い)。関西では、それら超難関校向けの中学受験「御三家」として、「浜学園」「希学園」「馬渕教室」がある。

関東、関西の中学受験塾「御三家」は、それぞれのエリアで、熾烈な合格者輩出競争を繰り広げながら、少子化で縮小するマーケットのシェアを奪い合う構図となっている。また、各社は、少子化を見据えて、ターゲット層を従来の小4~小6生のレンジに留めず、小1 更には幼児にまでレンジを広げて顧客を囲い込む政策を強化している。
更には、日能研-河合塾、四谷大塚―ナガセ(東進ハイスクール)、SAPIX-高宮学園(代々木ゼミナール)というように、中学受験専門塾が大手大学予備校のグループ事業者となって、それぞれが、小~高校生までを一気通貫でケアできる相互補完サービスの体系を作り上げている。

 

関東中学受験塾「御三家」の比較 by Xビジネスエンジン

 

いずれの事業者ブランドも、「理想ZONE」(=ユーザーが主体的にブランドを支持し、ブランドが浸透している状況)には位置付けられなかった。
「四谷大塚」ブランドは、「魅力度」(=メディアに左右されず自主的に反響しているユーザーの度合い)は高いものの、「温度」(=情報の拡散度合い)が低く、いわゆる「冷めた魅力」に位置する状態となっている。
一方「SAPIX」は、「魅力度」は低いものの、「温度」は相対的に高くなっており、自主的にブランドを支持している人の率は低いが、それなりに外形的には「SAPIX」ブランドが流通している状況にあり、いわば「同調的盛り上り」のステータスとなっている。
「日能研」についは、自主的に情報を発信しているユーザーの比率が低く、情報自体が拡散していない状況であり、(相対的にではあるが)3ブランドの中で最も魅力度、温度共に低く、「課題ZONE」に位置している。
「日能研」は、3社の中で、最も教室拠点が多く、関東に留まらず、地方の大都市部にも進出しているが、生徒数が多い分、生徒の学力も若干幅が広がり、「超難関校の受験対策」というブランド要素がやや薄れていることが、収益面では問題ないとしても、ブランドマネジメントの面では課題が顕在化しつつあることが伺える。
一方、「四谷大塚」については、昨今、マーケットが若干飽和する環境下にあっても、生徒数を増やし続けている事業者であり、利用者は(相対的にではあるが)能動的に「四谷大塚」のブランドに接し、「魅力度」自体は高いブランドであることが伺えた。但し、「四谷大塚」ブランドに関する情報の拡散度は低く、盛り上がりに欠いていることが課題となっている。
更に「SAPIX」については、超難関校合格者輩出の実績自体を広告戦略、ブランド戦略として位置付けていることからも、合格実績に関心を寄せるユーザーが、「SAPIX」ブランドの情報を「熱く」拡散している状況が伺える。但し、この拡散は、どちらかと言えば主体的なものではなく、合格実績を幅広くマーケティング戦略として喧伝した影響によるものという見方もできる。

 

中学受験 市場規模

2017年度における中学受験塾の市場規模は、前期からほぼ横ばいの1,070億円(前年比0.2%減)と算出された。
東京、神奈川等の都心部では、有名私立大学の付属中学の新設が昨今無いことと、既に教室出展の新たな余地が飽和しつつあることから、参入事業者の生徒数の伸びも頭打ちになりつつある。
その一方で、政令指定都市レベルの地方の大都市では、従来は存在しなかった地元の富裕層を満足させるエリート教育に対する潜在需要の受け皿となり、それなりに生徒数を伸ばし、市場を下支えする構造となっていることが伺える。
2018年度においては、2017年度と同様の傾向が続くものと見られるが、地方都市の伸びシロが薄くなることから、市場規模は前年比微減の1,065 億円(前年比0.5%減)になるものと予測する。

 

 

より詳細な情報は「Xビジネス ショートレポート Vol.1 」よりご確認いただけます。