ペット。一般的には「愛玩を目的として飼育される動物」のことを指す。決して、単に食い扶持と手間が増えるだけの存在ではなく、飼育者はペットにそれ以上の意味を求めている。ペットは心を和ませ、楽しませてくれる。飼育舎はペットと様々なやり取りを楽しんだり、その姿や鳴き声などを鑑賞したりする。
つまり、ひとは「お金と手間」以上の「感情」の見返りをペットに対して求めており、それゆえペットは「伴侶動物」とも呼ばれるのである。
ここでいう「求める感情」をほぼイコール「癒し」として、今回の「ペットな、ペットの」セラピー市場を論じていきたい。

 

  1. ペットなセラピー、アニマルセラピー。ペットに癒される人間(市場)
  2. イルカセラピーの事例
  3. 老人ホームのロボットペット(次稿)
  4. 癒しの対極「ペットロス」(次稿)
  5. ペットのセラピー、人間に嫌され癒されるペット(次稿)

 

1.ペットなセラピー、アニマルセラピー。ペットに癒される人間(市場)

いきなりだが、セラピーをいったん置いておいて、話題の主役となるペット飼育の市場はどのようになっているのだろうか。自宅でグロい深海魚や毒々しいタランチュラに癒されている少数派の方々には申し訳ないのだが、掲載データがこれしかなかったのでを厳選し、多数の家庭で飼育されているペットの代表格として、ここでは犬と猫を採り上げる。
アンチョコである矢野経済研究所発刊の「ペットビジネスマーケティング総覧2018年版」を紐解く。一般社団法人ペットフード協会の「全国犬猫飼育実態調査」によると、2017年度の推計飼育頭数は、犬猫合計1、844万6千頭(前年比98.8%)となっている。犬は892万頭(前年比95.3%)、猫(家庭内飼育猫=内猫のみ)は952万6千頭(前年比102.3%)となった。中長期的にみると、犬の飼育頭数は減少傾向、猫のそれは横ばい・微増の傾向が見てとれる。

 

【犬猫飼育頭数推移(推計)】

出所:一般社団法人ペッフード協会「全国犬猫飼育実態調査」より矢野経済研究所作成

 

「癒し」を論じるため「ペットセラピー」と書き始めたが、これは一般的には「アニマルセラピー」と呼ばれている。そしてアニマルセラピーは何かというと、「動物との触れ合いで、ひとの心を癒す」ということである。動物と触れ合うことで、心が落ち着いたりストレスが軽減したりなどの体験は、誰もが一度はあるだろう。こうした「動物を通した癒し」がアニマルセラピーである。ただし、すべてを動物との触れ合いに任せているのではなく、治療上のある部分で動物が参加し、専門の作業・心理療法士などが治療のゴールの設定などを行うという手順で行われる。

 

 

実は、アニマルセラピーという言葉は日本発祥の造語である。医療従事者が参画して行う動物介在療法と、動物とのふれあいを通じて生活の質の向上を目指す動物介在活動、そして動物の飼育を通じて社会性や協調性、思いやりの心などを育てる動物介在教育などを合わせた日本独自の概念なのである。

現在アニマルセラピーと呼ばれる処置の歴史は、意外に古く、言い伝えでは古代ローマ時代に負傷した兵士のリハビリに、馬を用いたアニマルセラピーが行われていたとの話がある。正式な記録を追うと、1792年に設立されたイギリスのヨーク収容所という精神障害者施設で、ウサギやニワトリなどの動物を飼育させて患者たちに自制心を身につけさせるという試みが記録されている。
精神分析学で有名なフロイトは、患者と接する際、アニマルセラピーを意図して犬のチャウチャウを伴っていたというし、ニューヨークの陸軍航空隊療養センターでは第二次世界大戦中、心身を損傷した兵士に公園で動物と接したり農場での家畜の世話をさせることで、気分転換を図ることを奨励していた。
家庭でペットを飼う事も、一番身近なアニマルセラピーである。アニマルセラピーに用いられる動物には、犬や猫、前述の馬などのほか、イルカなどもある。

日本のアニマルセラピーは、「日本動物病院福祉協会」(JAHA)が普及を進めている。JAHAは動物病院を中心として1978年に創立された社団法人であり、主に人と動物双方の福祉と生活の質の向上、人と動物と環境との調和に貢献することを目的として活動している。また、「NPO法人日本アニマルセラピー協会」ではセラピー犬と一緒に、高齢者介護施設や学校・幼稚園・保育園などを訪問して、アニマルセラピー活動を行っている。

 

2.イルカセラピーの事例

アニマルセラピーの領域で、近年、特に注目を集めているのがイルカである。イルカは海洋性動物のなかでも賢く知能の高い動物として話題になる。イルカの知能云々についてはここでは論から割愛するが、音声での意思伝達や遊びなど、他の動物には見られない本能以上の行動が見受けられることから、動物の中では平均以上の知能を持つものと考えてよいだろう。
イルカによるアニマルセラピーの歴史は、他の動物のそれと比較してまだ浅い。記録にあるイルカセラピーは、1978年にアメリカで、心身発達障害児にイルカセラピーを試みたことに始まる。これは「DAT (Dolphin・Assisted・Therapy)」と呼ばれたもので、当時アニマルセラピーの世界に新たな一石を投じるものとなった。その内容は、イルカと一緒に泳いだり、遊んだり、触れたりすることで、心理治療的な効果を目指すというものである。このなかでも、施設のプールなどで触れ合うものと、海に出て野生のイルカと交流するものと2種類がある。いずれの場合も、単にイルカと触れ合うだけでなく、アクアセラピーやサウンドセラピーなど、他の心理療法の手法と合わせて実施することがより効果的とされている。特にイルカセラピーは、下記の「サウンドセラピー」との相乗効果が期待されている。

 

・アクアセラピー

水中でスポーツなどを行うことによって心身の治療を行うもの。水、特に海水はイオン粒子が発生しやすく、リラックス効果が高まる。そのため体が柔軟になることで動作の幅が広がる。これにより、心身の障害者にとってそれまで今まで困難であった活動が可能になるというものである。その先の目標として、セラピー経験によって自尊心の向上と、人間関係の向上、社会生活への参加意欲を高める。

 

・サウンドセラピー

空気中と比較して、水中では五倍の速さで音が伝わっていく。そのため、水中で音を聴くと人間の聴覚も五倍敏感になるといわれている。水中で聴くイルカの声は人間には認識できないほどの高周波となるが、人間が胎内で聞いていた音と同じ範囲内の周波数である。この水中で(認識できなくとも)聴こえるイルカの声が、胎内での感覚を目覚めさせ、あらゆるストレスに対する耐性や、知力、活力を高めると考えられている。

 

 

筆者がこのイルカセラピーを知ったのは、(知人の知人からというまた聞きであるのだが)幼稚園から退園処分を受けるほど粗暴であった幼児が、イルカセラピーに通ったことで劇的に状況が改善し、いまでは普通に小学校に通って友達とうまくやっている、という話を聞いたことによる。
実際、イルカセラピーは試行錯誤を含みつつも、医療界で「治療」として認識されており、自閉症児の治療や鬱病の患者の治療にも用いられている。

(この稿続く)