アイドル市場の定義

主に若手歌手、若手芸能人に関して、個人が行う情報収集、応援、鑑賞等の活動に消費される費用を市場規模とする。単に「若手」である、ということでは「アイドル」ではなく、女性アイドルには「可愛らしさ」、「萌え」が、男性アイドルには、「甘いルックス」、「イケメン」といったキーワードがある程度当てはまる人物・グループのみが「アイドル」の定義の範疇となる。本市場については「出荷ベース」で市場規模を算出することが極めて困難なため、「ユーザー消費金額ベース」で算出している。具体的には「アイドル」のコンサートチケット、CD・DVD、写真集、関連グッズ、ファンクラブの会費等で構成される市場を「アイドル市場」とする。但し、コンサートへ行くための交通費や宿泊費等、間接的な費用は除外している。
 

アイドル市場の客層

2016年9月に矢野経済研究所が実施した消費者アンケートより、「アイドルオタク」を自認する消費者は日本国内に約224万人と推計。年代は19歳以下:30.2%、20代:30.2%、30代:14.9%、40代:11.0%、50代:9.0%、60代:4.7%と、10~20代が市場を牽引。男女比は37.3%:62.7%と女性比率が高い。また、今年度より新たに調査項目として加えた「オタク歴」については、5~10年未満が36.5%と最も多い。
 

アイドル市場の客単価

「アイドルオタク」を自認する層がアイドルのファン活動(情報収集、応援、グッズ購入、コンサート鑑賞等)にかける金額は平均で年間79,783円。1~5万円が31.0%と最も多く、10万円以上が23.1%と続く。5万円以上費やす層が40.4%と測定20ジャンル中突出して多い。
「アイドルオタク」の典型的な消費スタイルとしては、年数回コンサートや劇場等に行き、CDやDVDを年数枚、写真集や関連グッズを数千円~1万円分程度購入、ファンクラブの会費として年に数千円程度支出、というパターンが考えられる。人気アイドルのコンサートチケットはプレミアが付き、チケットショップやネットオークション等で、1枚10万円以上で販売されるケースもあり、ファン活動にかける年間金額が数十万円あるいは100万円近くに上る層も少なくないものと推察される。
 

アイドル市場の構造

本項では、市場の源泉である「アイドル」をプロデュースする「芸能プロダクション」を中心に解説する。尚、プロダクションに属さず個人で活動する「ネットアイドル」、「ライブアイドル(「地下アイドル」)」と呼ばれるアイドルも多く存在するが、こうしたアイドルへのファン活動は、ブログへの書き込みや路上ライブ等費用が発生しないものか、発生しても小額なことが大半である。ここ数年、「でんぱ組.inc」など、地下アイドルとしてだけではなく、TVCMに出演する等、活躍が目覚ましいが、ジャニーズ事務所やAKBグループの影響力が当該市場においては、依然として大きい。
 
芸能プロダクションとは、芸能人(アイドル、歌手、芸人等)が芸能活動を円滑に行うため、プロデュースやマネジメントを行う事業者の総称で、レコード会社、放送局、マスメディア等への営業活動、ギャラの交渉等を引き受ける。よって、「『タレント』という人材を放送局、映像製作会社等に派遣・紹介する人材紹介事業者」としての側面を持ち、法律上は「有料職業紹介事業者」に分類される。
所属タレント育成のためのレッスンを行うプロダクションについては、タレントからのレッスン料を対価として歌・演技・ダンス等のレッスンを提供するという観点から「『タレント』育成のための教育機関」という見方もできる。
ジャニーズ事務所等、レッスン料を徴収しないプロダクションもあるが、タレントからのレッスン料収入が売上高の大半を占めるプロダクションも少なくない。そして「レッスン料」は徴収しないが「登録費」や「入所金」等を徴収するプロダクションも多い。タレントのプロデュースには相当の費用(人件費・交通費・交際費、その他育成のための諸経費等)が必要なため、大半のプロダクションではタレントから何らかの費用を徴収(もしくはギャラから天引き)している模様である。
そのことをタレントが認識しておらず(もしくは入所前にプロダクションが明言せず)、入所後トラブルになる例や、「レッスン料」、「入所料」等を不当に高く徴収する詐欺行為も少なくない。更に、芸能界入りを目指す者をターゲットとし、「登録費」や「入所金」のみを徴収して行方をくらます、あるいはその後仕事を一切紹介しない「スカウト商法」と呼ばれる詐欺行為も横行している。
上記から、芸能プロダクションの収益は、タレントに仕事を紹介した結果生まれた収入(からタレントへのギャラを差し引いたもの)と、タレント自身が支払う「レッスン料」が大きな柱と見られる。その他、人気タレントのグッズ販売、あるいはグッズ制作・販売事業者への版権付与等により収益を得ているプロダクションも存在する。
人気アイドルを多数輩出し、知名度を高めている芸能プロダクションが多い反面、そのビジネス手法や事業体制等はオープンにされていないことが多く、様々な旧来の商慣習が残る謎の業界とも言える。
ジャニーズ事務所等トップレベルのプロダクションは別格として、それぞれのプロダクションが持つ力は、規模や知名度、歴史、経営者やその関係者の人脈、所属タレント等により異なる。有力プロダクションには優秀なタレントが集まりやすく、仕事の依頼も増え、売上も拡大する一方、そうでないプロダクションは優秀な人材が集まらない、仕事は来ないか極めて低単価のものに限られる、売上が伸びないという悪循環に陥りやすい。そのため、消長が激しく、淘汰の危機に晒される事業所も少なくない。
 

アイドル市場のトレンド、トピックス

●嵐がコンサート動員数最速の1,000万人突破

2015年12月27日、嵐が東京ドームで5大ドームツアーの最終公演で、デビューから17年目にしてコンサート動員数が累計で1,000万人を突破した。これは、日本のアーティスト史上最速の記録となる。同コンサートでは、5万5千人の観客からその偉業達成を祝福するかのような大歓声が巻き起こった。
1999年11月に「A・RA・SHI」でCDデビューして以降、約80万人を動員した今回の5大ドームツアーで累計のツアー動員数が1,016万3千人に到達したものであるが、1,000万人動員は2010年にSMAPが20年目で達成して以来、日本のアーティストとしては2組目の快挙となる。2016年は、ファンへの感謝として、4月のサンドーム福井から8月の横浜アリーナまで、全国6都市17公演を回る9年ぶりのアリーナツアー開催を実施した。
 

●SMAPが2016年12月31日に解散発表、日本中に衝撃

2016年8月、同社は、デビュー25周年を迎える国民的アイドルグループであるSMAPが12月31日をもって解散することを発表した。
さかのぼる同年1月に巻き起こった解散・分裂騒動を一度は乗り越え、その後グループ存続に向けた協議が行われ、5月にはジャニー喜多川社長が解散はないと明言していたが、最終的にメンバー間の溝が埋まらなかった。同年8月10日に、複数のメンバーがジャニー社長らの元を訪れ、解散の意思を伝えたという。この場では、休むより解散したいという希望が出たもので、全員一致の意見ではないものの、解散したいと考えるメンバーがいる状況でのグループ活動は難しいと判断された模様である。
今後の活動予定であるが、夏の各局の音楽特番は出演を辞退しており、「SMAP×SMAP」については協議中である。解散日となる大みそかのNHK紅白歌合戦も、オファーされることは想定されるも、辞退の可能性が高い。解散コンサートの予定もなく、契約更新が行われる9月以降、本人たちの希望で5人全員事務所にはとどまるものの、SMAPの音楽活動は25周年を振り返るベストアルバムの発売のみで活動にピリオドを打ちそうである。
 

アイドル市場規模

嗜好の多様化やメディアの多様化に伴い、日本国民誰もが知っていて幅広い層からの支持を集める「国民的アイドル」が出現しにくい市場環境となっているものの、ジャニーズ系アイドルグループと「AKB48」グループは、依然としてメディア露出度が非常に高く、「国民的アイドル」として認知されている。
熱烈なコアファンが市場を支えていると推察される。上述の通り、矢野経済研究所が2016年9月に実施した消費者アンケートからも、その様子が伺える。「アイドルオタク」を自認する層がアイドルのファン活動(情報収集、応援、グッズ購入、コンサート鑑賞等)にかける金額は平均で年間79,783円となり、測定20ジャンル中一番多かった。さらに、5万円以上費やす層が40.4%と測定20ジャンル中突出して多いことも当該市場の特長である。
代表的な例として、「AKB商法」と呼ばれる手法(CDや書籍等にランダムに添付される生写真やポスター等を全て集めるため、あるいは、CDに付いた特典(「握手会」参加券や「AKB48選抜総選挙」投票券等)を目的として同じ商品を多数購入すること)が多く、こうした行為がユーザー単価の拡大やCD・DVD等の売上枚数増の大きな要因となっている。実際、オリコンが発表しているCDシングルランキングをみると、ここ数年は「AKB48グループ」が上位を独占、加えて推定売上枚数が100万枚を超えている音楽アーティストは、「AKBグループ」のみとなっている。
ジャニーズ系タレントに関しては、「AKBグループ」と比較すると、コンサート会場の規模が大きく、その事業収入も大きいことが特色である。コンサートチケットを取れなかった場合、プレミアム付きの10万円を超えるチケットでも躊躇わず購入する、ブロマイドやグッズを大量購入する等、強い消費意欲を持った熱烈なファン(ジャニーズオタク)が多く存在する集団である。
市場の阻害要因として懸念されているコンサート会場の閉鎖や改修工事が次々と行われることが挙げられるが、当該市場におけるコンサートの大きな割合を占めるジャニーズ事務所所属のアイドルが行う会場は、各主要都市の大型ドームで開催されることから、受ける損害は大きくはないものと推定される。
このほかにも、地下アイドルの代表格とみられる秋葉原発のアイドルグループ「でんぱ組inc.」は、日本武道館での公演や食品メーカーのTVCMに出演、さらに地上波初のレギュラー番組(2014年10月~2015年3月放映)に出演する等活躍が目覚ましい。
 
以上のことから、矢野経済研究所では、2015年度のアイドル市場規模(ユーザー消費金額ベース)を前年度比30.7%増の1,550億円と算出した。2016年度の市場規模に関しても、同20.6%増の1,870億円まで拡大するものと予測する。
 
 
※当該市場は、売上やその内訳を公開している事業者は皆無に等しく、事業者の売上を足し上げた形での市場規模算出はほぼ不可能なため、本項ではユーザー消費金額ベースで市場規模を算出している。弊社知見や、主要アイドルグループのコンサート、CD・DVDの推定売上高等を基に推計している。
 

本稿の詳細データについては、下記調査レポートよりご入手いただけます。