前項で、トレーディングカードゲーム市場の歴史と市場の隆盛について論じてきた。本稿ではこのトレカ市場について持ち上げつつ落としながら、引き続き考察する。

 

  1. 全てのトレーディングカードゲームに影響を与えた「マジック:ザ・ギャザリング」
  2. トレーディングカードゲーム市場の回復を支えたモノ
  3. トレーディングカードゲームのどうしようもない傾向
  4. トレーディングカードゲーム業界の抱える問題とは?

 

3.トレーディングカードゲームのどうしようもない傾向

どうしようもない:そうなるよりほかに方法がない。他に方策のとりようもない。 例:「もうこうなったら-」(三省堂 大辞林)

現在のトレーディングカードゲーム(以下TCG)市場では、人気漫画やアニメを原作としたトレカが人気となっており、その原作のキャラクターグッズとしてトレカが存在している。大ヒットした「マジック:ザ・ギャザリング」に続けと、1990年代に日本国内のオリジナルタイトルの開発が始まるようになった。それ以前にも「SDガンダム」や「ドラゴンボール」等の人気アニメを原作にトレーディングカードが存在したが、総じてゲーム性は低かった。カードゲームのルール作りは非常に難しい。途中で素晴らしいコンセプトで開発された後発のカードが、初期のカードとルールに合わないケースも出てくるからである。そのため、メーカー主催の大会なども開催されておらず、トレカはコレクターズアイテムの域を出ていなかった。
そんな時流のなかで、1996年にメディアファクトリーから「ポケモンカードゲーム」が、バンダイから「スーパーロボット大戦 スクランブルギャザー」が発売された。これはトレーディングカードを文字通り「ゲーム」に特化させたタイトルであった。そして、これを見越したかのように、ファン待望のTCG本家の「マジック:ザ・ギャザリング」の日本語版が直後に発売となったことで、TCGの市場自体が一気に拡大することになった。さらに、2003年には「甲虫王者ムシキング」、その後には「オシャレ魔女 ラブandベリー(2008年終了)」など、小学生等の低年齢層向けのTCGが発売されたことで、プレイヤーの年齢層の幅が広がっていった。この背景には、低学年時からTCGに慣れ親しむことで、将来、本格的なTCGの潜在ユーザーとして取り込んでいくという思惑もあった。

 

引用元:「オシャレ魔女 ラブandベリー ~DSコレクション~」Amazonサイト

 

TCGはそのルール構築が非常に難しいが、いったんルールが完成してしまえば、そのテーマとなるカードキャラクターは、ぶっちゃけ「なんでもよい」。そのうえで、カードというコレクターズアイテム的な媒体と、漫画やアニメのキャラクターとの親和性は非常に高いのである。逆にいうと、同ルール、同ゲーム性のカードゲームであれば、人気のキャラクターやタイトルをTCGに持ってくることで人気が高まる。平たく言ってしまえば、そのほうがカードデッキが「売れる」のである。

業界の傾向がよくわかる最も顕著な例は、1999年に発売された「遊☆戯☆王オフィシャルカードゲーム デュエルモンスターズ」だろう。これは漫画の「遊☆戯☆王」を原作としたTCGであるが、そもそもこの原作のストーリー展開がTCGそのものなのである。言い方を変えると「TCGを発売するための原作」なのである。原作からTCGへ、ではなく、原作そのものが既にTCGという、TCGと人気原作のコラボ形態の頂点に立ったようなタイトルである。

 

引用元:「遊戯王」公式サイト

 

こうして各メーカーは、競うように人気の原作やアニメのキャラクターTCGを発売するようになった。そしてトレーディングカードの存在がメーカーのキャラクターグッズ販売戦略に組み込まれたことで、広く社会一般にTCGが浸透することとなった。これがトレカ市場を知る3つ目のポイントとなる。

ここまでのTCG市場の展開を読んで、どう思うだろうか。どれも順調・好調なように思えるだろう。実は、そう思える側面のみに意図してスポットを当てて記述してきた。筆者は冒頭で「どうしようもない:そうなるよりほかに方法がない。他に方策のとりようもない。」と書いた。順風満帆に見えるTCG市場の方策は、実は、メーカーがマーケティング的に良かれと突き詰めたことが、両刃(もろは)の剣として返ってくることにほかならなかったのである。見出しの「どうしようもない」という、ネガティブな語感に通ずる言葉の違和感の理由はここにある。

今回のコラムで記してきた3.の内容と、次項で記す4.の内容は、表裏一体の展開となる。そして予告しておくが、大団円とはならないのである。。

 

4.トレーディングカードゲーム業界の抱える問題とは?

前回、大人もハマる!トレカ市場を知る4つのポイント(1)で、市場規模の推移は2015年度で415億円、2016年度で428億円と書いた。そのときに書かなかった数字、2017年度の予測が377億円という内容にここで踏み込む。実は華やかに見えるTCG市場は現在、縮小の傾向にあるのだ。

前項「3.トレーディングカードゲームのどうしようもない傾向」で記した「マーケティング的に良かれと突き詰めたことが、両刃(もろは)の剣として返ってくる」とはどういうことか。これは、TCG市場を盛り上げるための、もっと言えばカードデッキを売るための方策が、じつは「そうするしかなかった」ものだということである。TCGがTCGである限り続く、運命的な体質と密接に関係しているのだ。

当然ながらカードゲームは対戦相手がいないとゲームが成り立たない。対戦相手がいなければ、カードはゲームツールでなくコレクターズアイテムになり、購入者はプレイヤーに成り得ずにカードコレクターになってしまうのだ。こうなると、ゲーム機本体と対戦ゲームを購入しておきながら、味気のないソロプレイをしているようなものである。ゲーム機なら一人でも遊べるが、カードゲームの場合は美しいカードをただ眺めているだけになってしまう。
ふと考えてみてほしい。カードデッキをいくつも買い、複雑なルールを覚えて、それから対戦相手を探す。こうまでして「ちょっと遊んでみたい」と思うだろうか。答えは否である。四つに構えてどっぷりとハマり込む重厚長大のゲームよりも、時間つぶし的に携帯端末でお手軽に遊べるゲームが歓迎される時代である。さらに「悪いことに」、同タイトルの原作の漫画やアニメのゲームアプリが、TCGと並行してまさにそのライバルである携帯端末用にリリースされているのだ。さらに追い打ちをかけて、それらのゲームアプリはダウンロードが基本無料で、ゲームを有利に進めるための課金システムを採用している。つまり金銭的にも敷居がはるかに低いのである。とどめに、対戦相手や仲間のユーザーは、オンラインで簡単に見つかり、相手を探す手間すらない。
オフライン媒体のTCGと、オンライン媒体の携帯ゲーム、同じ原作のタイトルならユーザーがどちらに流れるかは自明の理である。つまり、「そのタイトルの限られたユーザー数とその財布」を、「同じ原作のタイトルを冠に持つTCGと携帯ゲーム」がパイを食い合っているのだ。そしてこの傾向は、トレカ市場を知る3つ目のポイントとなる「トレーディングカードの存在がメーカーのキャラクターグッズ販売戦略に組み込まれた」ことで、「どうしようもない:そうなるよりほかに方法がない。他に方策のとりようもない」体質となってしまっているのである。同一タイトル内でユーザーを奪い合うこの共食い現象により、TCG業界全体が縮小の傾向にあるのだ。

このような状況にはカードゲームメーカーも危機感を持っている。対策の好例のひとつとして、ブシロードが発売している「ヴァイスシュヴァルツ」がある。その最大の特徴は、人気のアニメ・ゲームキャラクター群が作品の垣根を超えて入り混じる、クロスオーバー性にある。簡単に言えば各アニメ・ゲームの異種格闘技戦であり、例えば「ソードアート・オンライン」のキリトが、「ごちうさ」のココアに戦いを挑んだりするのである。ただし、マーケティング的に当然かもしれないが、別会社のカードデッキとはルールの互換性がない。

引用元:「ヴァイスシュヴァルツ」公式サイト

 

メーカーはカードを制作・販売すると同時に、そのカードを使用する大会や、ルールを覚えられるようにする学習イベントを頻繁に行っている。だが、根本的な解決策となっていないことは、市場予測の数値からも想像できる。
その根本的な解決策は、「面白いTCGを販売する」という、ゲームの原点にして単純明快な理屈になる。なるのだが、TCG業界においてヒット作というのは、前述したその体質からアニメやゲームとのコラボに依存している。現在のトレーディングカードゲーム市場では、原作もないまったく新規のタイトル(作品)が発表されるとうことは、限りなく少ない。それは、現在のトレカ市場が、漫画やアニメ等の原作の存在によって支えられているからである。もっと言えば、トレカはもはや、漫画やアニメのプロモーション戦略の一環としての存在であって、良くも悪くもキャラクターグッズの一環なのである。これがTCG市場を知る4つ目のポイントとなる。
つまり、TCGの世界では、原作もなくいきなり新規タイトルが世に出ても、それが過去にないくらいどれだけ面白いゲームであろうとも、ユーザーはどんなルールのゲームかもわからない、まったくなじみのないキャラクターや世界観に簡単にお金を払ってはくれないのである。そうして「マジック:ザ・ギャザリング」のような、原作なしの単独タイトルはもはや成立しづらくなってしまった。オリジナルタイトルを市場に送り込んだとしても、原作を背負ってない知名度ゼロのタイトルは、どれだけ面白いものだったとしてもプロモーションの段階で消えてしまうのだ。

それでもカードゲームメーカーは「両刃(もろは)の剣」の努力を続けている。Xビジネスのサイトの「トレーディングカード メーカー別Xランキング(2017年12月-2018年2月)」を見てもらいたい。
記事中に『「遊戯王」デュエリストが悲鳴 ゲームルール変更情報で「カード買い取り」停止(J-CASTニュース)』というくだりがある。この「悲鳴」は、メーカーのコナミがゲームのルールを抜本的に変更し、それに合わせたカードを発売する、という情報がネット上に流れたためである。このルール変更によって、数万円から10万円以上で取引されていたカードがゲームで使用できなくなる可能性も出てくるというのだ。
人気タイトル内でゲームルールを変更してまで新カードを発売すれば、確かに利益は上がるように見える。だが、人気タイトルはそれ自体がすでに、ゲームとしてルールが完成されているのである。前稿で書いた「一度離れたユーザーを施策によって同タイトルでも取り戻すことが可能な点が、TCG市場を知る二つ目のポイントとなる」が、両刃の剣として裏に出てしまった例である。

TCGがTCGである以上、この両刃の剣の運命からは逃れられないのが現状である。ここから脱却するための根本的な方策は筆者にもわからない。
現在のトレーディングカードゲーム市場がX次元であるとしたら、その市場を揺り動かして次の段階に昇華させるには、(X±1)次元の発想が必要である。(X+1)なら、プレイヤーがマラソンをしながらカードゲームをするのだろうか。(X-1)なら、音楽の世界のMIDI規格のように、世の中のTCGをすべて「ヴァイスシュヴァルツ」のような共通ルールの下に置くのか、別媒体の同タイトルゲームを無くすのか。。

解を見つけた方は、ぜひXビジネス開発室までご一報を。大喜利みたいなのでも可。