著者の友人の女性は一人でよく旅をする。国内から海外までどこにでも一人で行くので心配でもあり、今現在、彼女は世界のどこにいるかは分からない。いや、正確にはFacebookを見れば分かる。彼女のFacebookには「鹿児島駅に着いた。さてどこに行ったらいいか、とりあえずランチとしよう。どこか美味しいところ知ってる人いる?」とある。すると多くの友人達が「黒豚なら◯◯、駅からタクシーの方が近いかな」「さつま汁、一度は食べてみて。一番美味しいのは◯◯」との書き込みをし、彼女は彼らと会話をし、ガイドブックには掲載されない知る人ぞ知る至極のグルメを堪能する。時には写真をアップし「さて、これはどこでしょう?」と問いかけてはFacebook上で謎かけのやり取りをしている。その様は、もはや一人旅ではない。とても団体では行動できない不特定多数の「n」と共に旅を満喫しているのだ。

 

創発力

創発(Emergence)という言葉がある。中央集権的な情報の集積と共有、統治機構による組織としての進化のあり方に対して、「創発」は、組織に属する「個」同士が自律的に相関し、個々の能力の総和を超えた高度で複雑な秩序(自己組織化)やイノベーションが誘発される事を言う。2011年、北アフリカ、中東にドミノ展開した独裁政権に対する抗議運動に端を発した政権崩壊と民主化運動、「命令というよりもアイデアに基づいて運用されている非常に緩やかで、分散化された指揮系統をもったインターネット上の集まり」と評されるハクティビスト(ハッカー活動家)集団のネットワーク、指示や報酬もなく「n」の協力によって高度化するネットワーク上のソフトウェア、脳のない粘菌が集団で迷路を解き、集団でエサ場を見つけるアリの社会行動・・・その例は枚挙に暇がないが、同時にこの「創発力」を自社の組織に、マーケティングに活用できないかと考えを巡らすのは、極めて刺激的で先進的な思考への挑戦である。

 

イテレーション開発

例えば、商品開発においてA社はターゲットとする市場に存在するユーザーのニーズを最大公約数的に「Y」と捉え、「X」という商品の構想、企画、開発、設計、生産、販売に取り掛かる。これがウォーターフォール(滝)型の商品開発である。「Y」導出の成功と見当違いは、「X」投入後の市場の判断によってのみ判定される。人間が生きる上での根本的ニーズ――生理的欲求や安全欲求など――が満たされていない開発途上国、新興国などの市場における「Y」は極めて明確であるが、先進国の「Y」は分かりづらい。時に「X」の登場そのものが事後的に作り出される事も多い。我々の生活にスマートフォンが必須だった訳でもなければ、あれほど多くのアプリケーションのニーズが先行的に存在していたとは考えにくい。その分かりづらさゆえ、できるだけ多くの「X」を開発、投下し複数「X」のポートフォリオの全体最適を図るという力技が必要である。

ウォーターフォール的な商品開発のあり方とは別にイテレーション型の開発も注目を集めている。綿密な市場調査によって導き出された仮説「Y」に基づいた「X」を開発し市場投下するのではなく、「売れるかもしれない」「あったらいいな」を未完成のバージョンとして「n」に使ってもらい意見をもらう。ブレインストーミングならぬ、クラウド(人の群れ)を使ったクラウド・ストーミングである。イテレーションとは「反復」という意味である。これはクライアントからの要件定義に対して提案を重ね改善を図る事のできるB2Bビジネスにおいては従前のプラクティスであるが、このイテレーションと市場の「創発力」を掛け合わせ、B2Cにおいても活用できないかという問題意識である。こうした創発型ビジネスは海外での多く存在する。日本のBlabo!というベンチャー企業は、参加企業から提案されるお気に入りの商品の企画会議に日本中から参加するBlabo!ユーザーと参加企業商品担当者がサイト上で議論し、具体的に商品を企画し開発する、というプラットホームを運営している。トリッピーズという旅の企画プラットホームベンチャーは、週末のお料理教室から秘境の大冒険までユーザーからの意見を集め、オリジナル旅の企画にユーザーを参加させ、旅行を販売している。

 

Roost & Boost

現代のマーケターは市場のニーズに受動的に応えてはならず、「お一人様」の声や意見、アイデア、アドバイスの集まりやすい「お一人様の止まり木(Roost)」である「場の提供」とイテレーションによる「創発」の活性化(Boost)、その結果としての商品やサービスへの「結実」を支援する仕組みをシステム化する事、とも言えるのではないか。それがまさにXビジネスプラットホームが目指す理想像でもある。