健康は万人の願いである。その分野は傷病への対処から長寿まで幅広い。健康への関心は老若男女の区別なく、ごく身近なものであり、同時にその市場も広大に存在している。
健康をテーマとしたビジネスが、実際に展開している市場はどのようなものであろうか。

ここではXビジネスらしく、通常の「水やサプリを摂取したり、運動をするというダイレクトな販売や対処」でなく、「仕組み」として健康ビジネスに取り組んでいる事例を考察していく。

 

地方自治体がカフェを経営?

地方自治体が各地域の住民の健康増進を図ることは、行政として当然必須の施策である。だが実際には、計画が持ち上がっても、その実現のための企画、予算、ノウハウがないというのが現実の状況である。
過去には行政の高度領域に民間が参入することは稀であったが、ここにきて各自治体は試作実現のために民間企業とのコラボレーションを採用することに積極的になっている。そのうちのひとつが、いち地方自治体の新潟県長岡市とタニタのケースである。それが「タニタカフェ」である。

家庭用計量器メーカーであるタニタは長岡市のケース以前に、東京都内の丸の内に「丸の内タニタ食堂」をオープンさせて、健康に留意したメニューを提供している。長岡市のタニタカフェも、丸の内タニタ食堂と同様に、体組成計を活用して管理栄養士が健康アドバイスを行う「カウンセリングルーム」を設置しており、そこから健康情報を利用者に発信しているのだ。内装のコンセプトは「五感で感じる癒しの空間」であり、座席にはハンモックや足湯席も設置されている。
長岡市とタニタとの取り組みはカフェのみではない。市内の協力店にタニタプロデュースによるレシピを配布し、地元長岡の野菜などを活用したメニューを出す店舗も展開している。飲食店にとって新たなメニューを加えることは、オペレーションの変更を伴うものだが、「タニタ食堂」のブランドで集客力は高まっているとのことである。

 

家庭用計量器メーカーであるタニタが、どのようにして地方自治体とタッグを組むことになったのか。長岡市では、平成25年度に産学官が連携した「多世代健康モデル研究会」を立ち上げていた。これは、「誰もが健康に暮らせるまちづくり」を推進するものである。そして同年11月に長岡市の市民センター内に「タニタカフェ」をオープンすることとなった。最初からカフェの開店が目的であったのではなく、カフェは同市の健康推進の研究会の成果のひとつであり、いわば手段であったのだ。
長岡市は「多世代健康まちづくり事業」のひとつとして、健康の3要素「食」「運動」「休養」を良質でバランスよく実践できる健康づくりの拠点をつくりたいと考えていた。そして運営事業者である「一般社団法人地域活性化・健康事業コンソーシアム」が、健康総合企業であるタニタの「タニタ食堂」に注目したことで、同社がこの事業をプロデュースすることとなったのである。

 

タニタの健康ビジネスのノウハウとは

タニタは、カフェの店舗だけでなく「まちづくり」にも乗り出している。自治体に対して住民の健康増進を支援するだけでなく、集客や移住による街の活性化を推進したり、ヘルスツーリズムの企画など、各地域の特性に応じたサービスを展開しているのだ。

タニタでは全社員に歩数計や活動量計を持たせて、行動による体や体組成の変化を視覚化データとして蓄積した、約1割の医療費削減につなげたという「社内実験」のノウハウがあった。この「タニタ健康プログラム」を第三者に提供できる商品にまで高めて、地方自治地体へ提供したのが各自治体とのコラボレーションの始まりであった。
過去にも各自治体で健康増進のために同様の施策が為されてきたケースはあったが、いずれも事後の効果測定の視点が十分でなかったものが多かった。そこにノウハウを蓄積した民間企業のタニタが登場したのである。タニタは健康計測機器だけでなく、健康増進の企画から一連のシステムまでを構築・提供できるまでの実績がある。

また、長岡市とタニタのこの施策は、健康増進だけでなく、地域のコミュニティの活性化にもひと役買っている。組織した「ながおかタニタ健康くらぶ」の参加者には、会員証として活動量計が配布され、そのポイント獲得による長岡市内めぐりのエンターテインメント性も盛り込んでいる。これにより、自治体主催の健康イベントには参加しなかったような世代の参加を喚起することとなり、高齢者のみではなく幅広い年齢層の会員を集めることとなった。

 

タニタは長岡市以外にも、大阪府の河内長野市(団地の活性化)と、静岡県三島市(地元産品を使った健康レシピの開発)と、そして群馬県中之条町(温泉地のヘルスツーリズムの開発)との事業コラボレーションを手掛けている。それらの事業のポイントは、単に成功例マニュアルを持ってきて当てはめるのではなく、「現地を知るためのフィールドワーク、地域の声を聞きながらその特性に合わせた支援」を重視している点にある。この施策により、家庭用計量器メーカーであるタニタは、単なる健康増進事業の域を超えて地方創生にひと役買っているのである。