プラスチック樹脂という素材。様々な製品に加工され、現代社会の実生活のなかで、もはや必需品といえる存在である。
その身近な製品の代表例のひとつが、大和男(おのこ)であれば一度は手にしたことのある「ガンプラ」であろう(大和撫子さんたち、ちょっと待っててね)。
一応解説すると、ガンプラとはテレビアニメ「機動戦士ガンダム」に登場するモビルスーツ等のプラモデルのことである。
これからプラスチックや樹脂、シリコンなどの素材の「匠の技術」を斬るにあたって、本稿では、まずは国民玩具的存在のガンプラからアプローチしていくことにする。

アニメの「機動戦士ガンダム」がテレビで放映されたのは1979年のことで、説明するまでもない大ヒット作品である。劇中に登場するロボット「モビルスーツ」を再現したプラモデル「ガンプラ」が誕生したのは翌年の1980年であり、様々なシリーズ展開のもと、現在に至るまで多数の商品が作られている。
ガンプラメーカーのバンダイのホビー事業部では、1980年から2017年の現在までに1500種類以上、4億5000万個以上のガンプラを生産したとのこと。日本の人口を1億2000万人とすると、国民1人あたり3~4個のガンプラを買ったことになる(大和撫子さんたち、ちょっと付き合ってね)。

(画像は「プレミアムバンダイ」から引用)

 

単色成型から多色成型へ、塗装のいらないプラモ

バンダイのホビー事業部には、「シニアマイスター」と呼ばれる熟練の職人たちが在籍している。彼らは金属の型に、プラモデルの材料となるプラスチック樹脂を流し込む「匠」である。
3D設計のCADやレーザー加工機があれば、ひとまずプラモの金型を作ることはできる(実際にはこの金型の成型にも、最終仕上げをする「匠」が存在する)。問題は、そこに樹脂を流し込んでプラモの部品を成型する技術である。バンダイのホビー事業部では、そのノウハウを長年の操業で蓄積していることで、バリなどの余分な部分を出さずきれいな部品を作ることができるのである。それを支えているのが「シニアマイスター」の存在なのだ。

原材料となるプラスチック樹脂は、ポリスチレンやスチレン樹脂など複数を使い分ける。シニアマイスターたちが熟練の経験判断のもと、金型の形状や原材料の特性に合わせて、流し込む樹脂の状態の設定値を細かく調整するのである。そこには温度や樹脂の順番、タイミング、固まるまでの時間などの要素が複雑に絡み合う。「コンピューターでは樹脂の細かな流動や性質の変化を制御しきれない」とのことで、ときには樹脂メーカーへの要望やそのための話し合いなども業務のなかに発生するのである。
複数の樹脂を同時にひとつの金型に流し込んで部品を成型するのは、樹脂が金型の末端まで行きわたらない確率が高くなり、不良品を生産してしまうことになる。この部品成型に非常に高度な技術と経験が必要とされるのである。

この「多色成型」は日本のプラモデルメーカー特有の技術であり、海外のメーカーでは見られないものである。1枚のランナー(枠につながった状態の部品)に複数色の部品が配置された、組み立て時に色を塗らなくとも設定どおりのガンプラに仕上がる「いろプラ」は、バンダイの技術の代名詞になっている。4色を同時に成型できる「多色射出成形機」を保有しているのは世界でもバンダイだけとのことだ。もちろん機械の存在だけでなく、それを制御できる「匠」であるシニアマイスターの存在も、バンダイだけなのである。

 

匠の技を機械成型で再現

バンダイの「多色射出成型」には、さらに驚くべき「匠」の技がある。モビルスーツなどのロボットではなく、人間を模したフィギュアの「瞳」の部品を多色成型するというのだ。
それは「レイヤードインジェクション」と呼ばれる、世界初の樹脂成型技術である。従来フィギュアの瞳というと、プラモのキット購入者が筆先で書き込んで(そして大抵は瞳の塗分けをガタガタにしてしまって)おり、またはデカールと呼ばれる(瞳の)シールを目の部分に貼ることが普通であった。それを「複数の色の樹脂を流し込んで、塗装の必要のないように(しかも極小の)瞳の部品を成型する」というのである。それも「まつ毛」のパーツに至るまでである。フィギュアの表情、出来に直結する技術であり、金型作製からはじまって相当に高度なオペレーションが要求されることは想像に難くない。

(画像は「バンダイホビーサイト」から引用)

 

この「レイヤードインジェクション」は、1つのパーツ(!)に最大4色の樹脂を流し込んで成型できることが大きな特徴である。まさに、過去ガンプラの成型で培ってきた技術と「匠」の技の集大成である。同時に樹脂の種類も変えて、髪はつや消しの樹脂、瞳は光沢のある樹脂など、樹脂の種類も部位ごとに使い分けることでアニメの設定に近づけているのである。

 

ガンプラ技術の根底にあるもの

バンダイのホビー事業部の生産現場には、緑色のケースがいくつも積まれている。ケースはバーコードで管理されており、これで資材の運搬を管理しているのだ。特筆すべきはそこではなく、このケースの色が緑色なのである。ファーストガンダム世代ならわかるだろう。緑は「量産型」の色なのである。ここまでの世界観のこだわりが、とことん技術を突き詰めている「匠」の気概のひとつを表している。
バンダイの社員、特にホビー事業部の生産部門の所属社員は例外ないといっていいほど、皆が「いつか本物のガンダムを作りたい」との熱い思いを持っているとのことだ。それが、生産現場のケースの色であったり、工場の内装がまるでサイド7であったり(わかんない大和撫子さんたちごめんねググってね)、樹脂の素材から末端のパーツ成型までのこだわりにつながっているのである。

 

遊び心を技術として昇華させる同社の気概に「匠」の技を垣間見る。Xビジネスもこうありたいと見習うべき事例のひとつである。