本稿は、前回の「匠」のプラスチック・樹脂加工技術-TENGA編-(1)の続編である。前稿を読了してから本稿に進んでほしい。

 

いちばんの「匠」はTENGA社長? 

TENGAの人気の秘密は、ぶっちゃけで言って「気持ちいいから」である。その秘密は綿密に計算された内部構造にある。ひだひだや球体状のプツプツ、コリコリとした突起、波状のギザギザなど変化に富んだ内部構造は、柔らかく痛くない刺激を創り出すのに最適な素材に裏打ちされている。その秘密は、創業者社長の松本光一氏の存在なくしては語れない。

TENGA設立前は普通のサラリーマンだったという松本氏。ある日アダルトショップに入ったとき、強烈な違和感を覚えたというのだ。それは「性欲は根源的な欲求なのに、それを解消するためのアダルトグッズが、猥褻で特殊なモノ、という扱をされているのはおかしい」というものである。そこで「一般的に認められているアダルトグッズが世にないなら自分で作ってしまおう」と思い立ったとのこと。現在のTENGAにつながるコンセプトは、このように当初から至って真面目なものだったのである。
そして自主製作をはじめた松本氏は、勤めていた会社を辞めてまでして開発に取り組んだとのこと。朝6時から深夜2時まで試作を繰り返す日々だったそうである。樹脂素材の調合を変え、形状を変え、とことんこだわりを続けた開発の日々は、文字通り血のにじむ(どこに?)日々であったことは想像に難くない。その原動力はあくまで、そしてどこまでも「アダルトグッズの現状を変えたい」という熱意であった。
やがて、大手AVメーカーであるソフト・オン・デマンドと接触する機会を得て、2005年に「TENGA カップシリーズ5種」が発売されることになった。当時「アダルトグッズは5000個売れれば成功」と言われた時代に、TENGAは販売1カ月で10万個を、そして発売から1年で100万個の販売を記録することになる。松本氏の目標であった「アダルトグッズの現状を変えたい」は圧倒的な数字をもって達成されたのであった。会社としてのTENGAの年商は、2016年の決算発表で売上高45億円という超優良成長企業なのである。

その後、TENGAはそのラインナップを大きく拡充し、現在では女性スタッフだけで企画と開発を進めたセルフプレジャーアイテム、女性版TENGAともいえる「iroha」シリーズも上市されている。全製品に共通しているのは、アダルトグッズとは思えないスタイリッシュさである。

(画像は「TENGA製品ページ」から引用)

 

前稿の冒頭で読者に18歳かどうかを尋ねたが、じつはTENGA社の製品は、法律上18禁でもなんでもない。本来は高校生でも自由に買えるはずの製品である。TENGA社はそれを自主規制の形で年齢的な販路を限定している。売上だけを考えればこのような「足枷」を自ら課す必要はないのであるが、それでは、TENGA社の考えとはいったい何であろうか。

 

性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく。そのために。

成人用玩具といってしまえばそれまでである。だが、TENGA社のスタッフはどこまでもまじめで明るく、そして熱い。製品開発のコンセプトを実際に聞いて感じるのは、ひたむきなまでのまじめさである。そこには「エログッズでひと山当ててやろう」などという意識は微塵も存在していない。

同社はCSR(Corporate Social Responsibility、企業が社会に対して責任を果たし、社会とともに発展していくための活動)として「障害者の性」「射精障害の治療への協力」「RESPECT YOUSELF PROJECT」等を掲げている。

「障害者の性」では、カフ(自助具。ここではマスターベーションのため)の開発を行ったり、特定非営利法人の活動サポートなど、身体障害者の性に関する問題にも取り組んでいる。
射精障害は、過度に圧をかける刺激の強いオナニーによって膣内での射精が困難になるという症例であり、妊娠を前提とした性交では深刻な悩みとなる。これに対し、TENGAの製品を使用して、刺激の強いハードタイプからスタンダードタイプ、ソフトタイプと段階を追って、弱い刺激で射精できるようにしていくという試みを行った。この試みは日本性機能学会でも発表されている。
RESPECT YOUSELF PROJECTは、エイズ予防の啓発活動と支援を目的としたチャリティープロジェクトである。アパレルブランドとコラボレーションした限定商品を販売し、その全収益を財団法人エイズ予防財団に寄付している。

ここまで来ると医療分野に進出してもおかしくない。実際、TENGA社はさらに、子会社として2016年に株式会社TENGAヘルスケアを設立している。同社はビジョンとして「性の悩みや問題のない社会へ」、ミッションとして「社会・個人の性にまつわる悩みや諸問題を解決します」を掲げている。そして「セクシャルウェルネスをサポートする医療/福祉向け等製品/サービスの開発、公衆衛生を含めた性教育の支援と情報提供、人類のセクシャルウェルネスの向上に貢献する研究活動」を事業内容としており、講演活動なども積極的に行っている。

(画像は「TENGA Healthcare Blog」より引用)

 

TENGAの製品に用いられる、プラスチック樹脂のひとつである熱可塑性エラストマー。成人用玩具の域を越えた企画から製造・開発までの、「匠」のプラスチック・樹脂加工技術に対する情熱を、TENGA社の担当者は「性・表通り」と、明るくそして熱く語ってくれた。その情熱と姿勢にXビジネスも共感しているのである。