前回は成人用玩具の小道具であるTENGAについて、「素材を取り扱う匠」の視点で製品を考察してきた。シリーズ最終回となる本稿では、小道具に対して大道具を論じていきたい。ぶっちゃけで言って、オナホールに対しての、いわゆるダッチワイフ、ラブドールである。ココロして読まれるように。。今回も論の根底にあるのは、素材を取り扱う「匠」である。

たまたまシリコンやエラストマーとして生まれたプラスチック樹脂の素材たちが、今度は気がつくと人の形をしていたケースが、本稿の主役であるラブドールである。本人(樹脂素材たち)は、ただの高分子プラスチックのカタマリとして存在しているだけなのだが、その形状はTENGAやirohaと違い、人間の全身を模したものである。そして「顔」があるものなので、その感情移入度はTENGAシリーズとはまた別格である。何より、「全身で肌に触れる」製品であり、その素材には、ユーザー納得の感触と安全性がより一層求められる。

 

創業から現在まで。とんでもないモノと間違えられる?

オリエント工業の創業は1977年とラブドール業界では最古参である。創業者社長の土屋氏は、東京都台東区の上野と浅草でアダルトショップを経営していた。当時店舗で取り扱っていたダッチワイフが、空気漏れが多く実用性が低かったことから、自らその改良を手掛けたことでオリエント工業の起業に至ったとのことである。
その際、障害者の性行為の実際について、性欲を解消できず風俗でも相手にされないという現状を知ることになる。その解決のための製品改良と起業であったとのことだ。このあたり、前回のTENGA社長と共通した意気込みであり、やはり単なるエロ追求ではなく、世の役に立ちたいという思いがその原動力になっていることが興味深い。

そのような経緯で制作されてきた「彼女たち」は、モノとしてみれば「ただのシリコンやエラストマーのカタマリ」である。創業者の思いを反映したそのカタマリは、どのような素材選択の変遷を辿ってきたのであろうか。

初期の製品はラテックス製であり、これは水中に重合体の微粒子が安定分散した乳濁液のことである。自然界に存在する乳状の樹液や、界面活性剤で乳化させたモノマー(高分子を構成する単量体)を重合することによって得られる液体を指し、空気に触れると凝固する、やわらかいゴムのような特性をもっている。ラテックスはデリケートな素材であり、裂けやすいなどメンテナンスも大変だったことから、従来の商品をソフトビニール(フィギュアのいわゆるソフビ。ある程度の柔らかさはあるが、折り曲げることはできない)仕様に改めた新製品を発売し、設定年齢にも幅を持たせたこともあり、売り上げが従来の5 ~6倍にも達した。

この頃には競合他社も現れ、世間ではよりリアルなドールが流行となっていた。ユーザーからはソフビ化で好評であったモデルのリアルドール化の要望が強くなっていた。この「リアル化の要望」とは、造形もであるが、軟質プラであるソフビよりも人間の肌に近い素材、すなわちシリコン化への要望である。色や耐久性の追求など、開発には相当な苦労があったとのこと。そして2001年にはシリコン製のドールを発売することとなったが、全身シリコン製の製品は、ここで販売価格が56万円にまで跳ね上がることになる。
オリエント工業は当然ながらこの価格帯では量販は見込めないであろうとの予測から、当初は初回50体の受注生産を行う予定であった。だが受注開始から数十分後には100件以上の注文が入り、新規受注をしばらく停止するという処置をとるほどのユーザーの大きな期待を集めたのである。
逸話として、製品である人形をショールームへ搬入する際に死体と間違われ、警察に踏み込まれたこともあるそうだ。

現在(2017年11月下旬時点)でも、同社の主力商品の平均価格は60万円程度である。国内の競合他社、特に中国製の数万円の安価な製品に押されることもなく、「高値安定」の業績を上げ続けている。

 

オリエント工業のショールームで見たモノとは?

これほどの魅力を持つ、オリエント工業のラブドールとは、実際にどのような製品なのであろうか。文字通り「肌感覚」を知るべく、筆者はショールームの見学を申し込んだ。
見学は一度に四名までであり、土日祝日は女性の見学を断っているとのこと。期待と不安(無理やり買わされたらどうしよう)を胸にドアを開けると、いきなり30畳程度の大きな部屋が表れた。そこに「居た」のは着飾った、そして何人かは裸の、15人ほどのラブドールたちである。続いて現れたのは初老の人間の男性。前述の製品仕様の解説の大半は、この男性が話してくれたものである。

ショールームのなかで何体かのドールを実際に触れさせてもらったのであるが、体温以外で感触的な違和感を感じることはなかった。触れていくうちに、錯覚とは異なる「愛着」を感じてしまうのである。ちなみに「実用性」は十分である。
各タイプの違いや素材の説明を受けながら、いつのまにか取材としての質問が自分の要望になり、最終的には完全に自分の趣味まるだしの(組み合わせはナイショ)好みの「女の子」をカスタマイズした見積書が出来上がってしまった。
そこには無理やり買わされるなどの圧迫感や違和感などなく、感じたのは、製品への絶対の自信と、製品への思い入れ、ユーザーへの思いやりであり、心療内科でやさしくカウンセリングを受けているような気分であった。その対象の根底は「プラスチック樹脂のカタマリ」のはずなのに、である。

(この稿続く)