ロシア語と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。習っていると言おうものなら「なんでロシア語?」と奇異の目で見られ、大学の第二外語選択ではハズレくじ扱い。それどころか選択語学として設置してある大学自体が希少というロシア語。NHKの語学番組では、他の言語が毎年新作のなかで2年くらいの再放送は当たり前、ラジオに至っては08:50からの放送と、通勤のお供にならない時間帯に放送されるくらい冷遇されている有様である。日本国内において「ロシア語って使い道あるの?」と思われても仕方がないことかもしれない。

だがロシア語は、日本の隣国にある大国ロシア連邦の言語であり、国連の指定公用語にもなっている。その母語話者数は世界で8番目に多く、第二言語としての話者数まで含めると世界で4番目となる。
そして日本でも、ロシア語を専攻できる大学は、国公立大学では東京外国語大学、大阪大学外国語学部、神戸市外国語大学などがある。第二外語としては、神戸大学、筑波大学、北海道大学、新潟大学、鳥取大学、埼玉大学など。私立大学では上智大学や京都産業大学、同志社大学、早稲田大学のロシア文学科などもある。
大学以外の各種学校では、東京ロシア語学院、ロシア極東連邦総合大学函館校、慶應義塾大学外国語教育研究センター(講座聴講生)、DILA国際語学アカデミーなどが存在する。

このあたりで、本稿の目的である『「ロシア語」「ロシア」というトリモチを世の中で振り回したら、何がくっついてくるのか』を考察していきたい。


まず、ロシア語の検定試験としては2種類の試験が存在する。ロシア語を母国語としない人たちを対象とした、ロシア連邦教育科学省が認定する国家試験の「ТРКИ(テー・エル・カー・イー、テルキまたテルカイ)」、もうひとつは、ロシア語能力検定委員会が実施する「ロシア語能力検定試験」がある。
ロシア語能力検定の受験者数は、2005年が614人、2016年が1422人と、右肩上がりの伸びを見せ続けている。ちなみに2016年の同試験の検定料収入は、全級の合計で818万9000円である。(ロシア語能力検定委員会発表、東京ロシア語学院HPより)

2012年のロシア語能力検定受験者数が1081人に対して、翌2013年の受験者数は1218人と、前年比102パーセントに(2011年→2012年)に対し113パーセント(2012年→2013年)と、受験者数が大きく伸長している。この時期に何があったのか。そう、2014年の2月には、ロシアのソチで冬季オリンピックが開催されたのだ。それに合わせて日本国内のロシア語学習者が増加したことが推察できる。
この年は実際に、東京ロシア語学院でも2013年6月に「フィギュアスケートから学ぶロシア語入門」が開催され、新規受講者を獲得している。ちなみに受講者の大半は女性で、「ソチでプル様にロシア語で声援を送りたい」などの、熱意のある、ある意味まっとうな語学学習志望者を集めた。同学院では、そのオリンピック熱の余波をかって「フィギュアスケートから学ぶロシア語の基礎」という講座がオリンピック後の2014年10月に開催されている。


日露首脳会談・東京オリンピックで勢いのつくロシア語・ロシア市場

少し視点を変えて「ロシア語で」「働く」という市場はどうであるのか。ロシア語に限らず「語学で働くこと」の代名詞は、通訳・翻訳業務である。通常の通訳・翻訳市場に加え、現在のロシア語・ロシアのビッグウェーブは、2016年に開催された日露首脳会談と、2020年の東京オリンピックである。

2016年12月に行われた日露首脳会談では、北方領土についての実質的な進展はなかったが、経済活動交渉推進で合意するという共同声明が発表された。これは北方領土のみならず、日露両国全体での経済活動を指している。
本年2017年の7月には、ロシアのエカテリンブルクで産業技術展「INNOPROM」が開催される。これは日露両国のみならず世界中から金属工学・産業オートメーション、機械的建築、機械工学の構成部品、エネルギー分野の技術が展示され、その場で出典企業と商談を行うというものである。ここに、日本側から日露通訳者が約50名集められることになっている。日本からの参加企業は170〜180社が参加を予定しており、過去にない大規模な動きである。これらが、安倍・プーチン会談の結果を表している。また、INNOPROM終了後も、上記の商談継続のため、ロシア側から約10名、日本側からも約10名の通訳者を確保することになっている。

ほかにも日露首脳会談後の具体的な取り組みで、日露間における人的交流の拡大に向けた方策のひとつとして、2018年に「ロシアにおける日本年」及び「日本におけるロシア年」を相互に開催することで一致し,開催に係る政府間覚書が署名されている。これを受けて、日本側から20名、ロシア側から20名の日露・露日通訳者のアテンドが決定されている。同時に、資格を持ったロシア語観光ガイドが通年で50名程度、需要が予想されている。
また、2020年まで、オリンピック需要、日露中小企業交流、北方経済圏構想、観光ガイドなどで、年間100名程度の仕事増が期待されている。


Xビジネス調査チームでは、本稿のストーリーを「ロシア語」から、アフリカ東部共通語の「スワヒリ語」、エスキモーの用いる「イヌイット語」、ブッシュマン(サン族)の「コイサン語」に至るまで、様々な少数言語のトリモチを振り回して市場を斬り、Xビジネスの視点で市場を昇華させていく所存である。
マイナー言語を愛してしまったXな方々は、自分の学習する言語のトリモチを振り回してみてほしい。くっついてくる市場が、きっとあるはずである。英語やフランス語などメジャー言語を愛してしまった人たちは、メジャーゆえに放っておいてもなんとでもなるので、自力で程よくがんばってほしい。