たいていの街にある温浴施設や銭湯。お手軽な行楽・リラクゼーションの場であるが、その市場規模は減少傾向にある。大局的な話になるが、矢野経済研究所の独自推計では、2016年の見込みでは市場規模は2,950億円で対前年比94,8%、2017年の予想では市場規模は2,880億円で対前年比97,6%と、減少傾向が続くと予測される。

このままでは温浴施設や銭湯は、無策であればジリ貧の一途を辿っていくことになる。町の小さな、老朽化した、後継者のいない、地域のひとに惜しまれつつ姿を消していく銭湯たち。厚生労働省の「衛生行政報告」によると、いわゆる町の銭湯に相当する「普通浴場」の数は、明らかに減少傾向にある。

そんな銭湯業界のなかで昨今注目を集めているのが、「銭湯再生ビジネス」である。その特徴は、まとまった資本投下による利益を上げることとは多少異なっているところにある。曰く「地元の風物詩をなくしたくない」「子供たちが学べる銭湯にしたい」「人を育て、人が育つ場にしたい」など、「交流の場」として再生させたいという意図で推進されているものである。市場としてはニッチ、だがその気持ちは湯のように熱い。これぞXビジネス!である。

しかし、実際に廃れていくものを立て直すには先立つものが必要になる。平たく言えばお金、必要な資金を、銭湯再生ビジネスではどうやって調達しているのであろうか。

企業のマーケティングだと、企業の資金を投入してのリニューアルや飲食店の併設、イベントを仕掛けるというパターンになる。Xビジネスとして注目している小規模銭湯の再生プロジェクトでは、過去のこれらの、まとまった資金投入パターンを杓子定規に当てはめて成功を目指す、というわけにはいかない。また、立て直したあとの運営の問題もある。新たに従業員を確保して運営にあたれば、その人件費だけでたちまち再生銭湯は立ちいかなくなる。その問題をどうするのか。
 

銭湯再生の主役は若い世代


銭湯再生ビジネスにおいて、資金面でも人的面でもそれらを支えているのは、地元の人たちの熱意、特に20代から30代の若者の存在が顕著である。なぜ彼らは銭湯再生ビジネスに集うのか。彼らが異口同音に語るのは、「異なる世代をつなげたい」ということ。そう、地域の年長者より若者のほうが、世代間交流に積極的なのである。この「交流」こそが、Xビジネスとしての銭湯再生の根底にある。そこには、もはや銭湯での入浴そのものを目的とするのではなく、若い世代の発想の転換、「ハコ」を活用したアイデアが展開されている。

顕著な例としては、いきなりだが、銭湯としての入浴機能を取り去ってしまった島根県の銭湯「鶴乃湯」がある。島根県江津市のビジネスプランコンテストで審査員特別賞を受賞したこの企画は、れっきとした、廃業した銭湯を再生させようという試みである。
この企画では、現在は風呂としての機能はなく、「銭湯居酒屋」や「手ぬぐい染めワークショップ」の開催など、地域の交流が生まれる場所として活用されている。
銭湯再生としては本末転倒に思えるが実はそうではなく、交流の場として存在を地域内外にPRすることで、改修の資金集めだけでなく、運営の協力者を募ることや銭湯の必要性を発信していくことで、近い将来、本来の銭湯としての再生を目指している

そのほかにも全国各地で、本来の入浴機能に絡めて、飲食店とのコラボで「足湯カフェ」に業態を変更する例、イベントとして「外国人観光客の入浴マナー研修」を行う事例もある。
 

出資のトレンドはクラウドファンディング


その地域と関わりがなくとも、その意気に感じた出資者を他地域から集める方法もある。これも昨今ネット上で資金調達手段として注目されているクラウドファンディングである。特徴は、あらかじめ出資者に明確なフィードバックが提示されている点にある。温泉再生ビジネスでは、銭湯の会員制度への入会や割引、イベントへの招待などがあり、出資したあとにその成功・成果を実際に体感できる点で人気となっている。

銭湯再生ビジネスは地域の応援団


銭湯再生ビジネスは「一過性の人たちが入れ代わり立ち代わりやってきてお金を落としていく」ことの連鎖で成り立つものとは異なる。このビジネスの根底にあるのは、「ひとの気持ち」である。いわゆる商売商売した運営でなく、そこに存在する、地場にあるもの、地元のひとの気持ち、そういったものが肝要になる。他所から突然資金が振って涌いてきて「好きに使って下さい」で安易に成功していくものではない。そこを理解したうえでの熱意のある資金協力者、運営協力者の存在こそが、Xビジネスとして成功を収めるキーポイントになる。

東京都では銭湯の料金は460円、全国的にも同程度額だ。遠出しなくとも、お手軽な地元のリラクゼーションスポットがそこかしこに存在しているのである。そういうわけで皆さん、地域貢献も兼ねて、お休みの日に地元の銭湯でゆったりと過ごすのはいかがだろうか。

(依藤 慎司)