夏以外でも商機は無尽蔵

ロシア人は冬でも屋外に並んでアイスクリームを買って食べる。夏食品の代名詞のアイスクリームは一年中需要のある食品であることは言うまでもない。同様に、夏のコンテンツと思われがちな怪談・心霊分野も、じつは一年を通じてビジネスになり得る市場が存在している。

テレビでは夏期を中心に心霊特番が組まれるのはもちろんのこと、「季節外れの冬の怪談」、「春休みスペシャル」など、季節感を無視して夏以外にも同様のコンテンツが出現する。これを書いている4月中旬でも、テレビ番組では毎週「異界のドア 〜ホラー・不思議現象の総合番組〜(TOKYO MX2)」を放送しており、4月21日には「金曜プレミアム・映っちゃった映像GP【宇宙人ミイラ独占初公開/心霊・UFO】(フジテレビ)」が放映され、いちばんシーズンオフでありそうな1月にも「世界の怖い夜2017(TBS)」を放送している。
「もう一度ご覧いただこう」「おわかりいただけただろうか」の決め台詞で有名な「ほんとにあった!呪いのビデオ」シリーズは、1999年から続いている超定番の人気心霊ビデオもので、現在71巻まで発刊されている。レンタルビデオ店に行けば、数えきれないほどの怪奇心霊もののDVDがきちんとジャンルとして面積をとって陳列されている(なぜかAVコーナーのそばにあることが多いのだが)。

さらに怪談ものの公演では、これも定番の「稲川淳二の怪談ナイト」が1993年から毎年全国ツアーが組まれており、クラブチッタ川崎でのオールナイト公演では、チケットが即日sold outになる。チケットぴあやイープラスなどのオンラインチケットサイトで「怪談」や「心霊」などで検索を掛けると、その稲川淳二の怪談ナイトをはじめ、古典定番の「四谷怪談」「牡丹灯篭」や、さっそく季節を外してくれている「黄金週間に怪談」などの公演が目白押しだ。

そう、この世は怪談・心霊コンテンツ天国なのである。


「ロフトプラスワン」などのトークライブハウスでは、ブームになった「新耳袋」の原作者が毎月深夜の怪談トークライブを行っており、本来はお笑い芸人であるはずの「ありがとうぁみ」などの怪談芸人から怪談好きの素人まで、「敷居の低い」場として怪談・心霊トークのコンテンツが提供されている。また、FacebookやmixiなどのSNSでは、怪奇ものの会議室やトピックが無数に存在し、全国でオフ会の形で怪談トークライブイベントが繰り広げられている。

なんといってもこの分野での異色のビジネスは、タクシー会社の三和交通(本社:横浜市)が2015年に企画した「三和交通・タクシーで行く心霊スポット巡礼ツアー あなたの知らないタクシーの世界」だろう。タクシーに乗り、夜の9時に新横浜を出発して、「サラリーマンの霊が出ると噂の某トンネル」「夜な夜な少女の笑い声か聞こえるガード下」「廃墟ホテル」「〇〇事件の〇〇〇〇現場(原文ママ)」「何があったかはわからない古ぼけた整備工場の問題の部屋」などの心霊スポットを巡っていくというものだ。料金はタクシー一台で6,000円。7月から9月の全13日の日程の予約は瞬殺で埋まったとのことである。
同社に何か勢いが憑いたのか、翌2016年にも同企画で「〜鬼哭啾啾な多摩編〜」が実施された。恐怖度の異なる「ショートコース(120分)」「ロングコース(180分)」「昼コース」「夜コース」など、更に趣向を凝らしたものとなった。これも前年に輪を掛けて予約は瞬殺であった(当稿筆者の経験談)。

なお、類似の企画として、はとバスが「講談師と行く怪談ツアー」を定番コースとして実施している。企業の資本は怪談・心霊ものにも注目しているのである。

 

Xビジネスのポイント:既存のインフラと組み合わせて「儲かる」ビジネスに

怪談・心霊もののトークライブイベントと「タクシーで行く心霊スポット巡礼ツアー」に共通しているのは、「敷居の低いコンテンツ」を「敷居の低いインフラ」で提供しているという点である。言い換えれば「無尽蔵にあるネタ」を「既存インフラでエンターテインメントコンテンツに昇華(昇天?)させている」ということである。
タクシーは言うまでもなく乗客を乗せて目的地に運ぶものであり、ライブハウスは音楽や観劇の場である。(金額の程度はあるが)そこに障壁となる敷居の高さはない。いまはYouTubeで素人がオリジナル怪談を朗読し、廃墟や心霊スポットで撮影した動画をアップロードする時代である。コンテンツは無尽蔵にある。「つくり」のコンテンツですら、エンターテインメントとして割り切って受け入れられる。

例えば「怪談ドーム」「予算200万円、心霊スポットでお見合い」「心霊怪奇スポットで地方創生」など、単語だけ見ればどれだけ非難ごうごうとなろうとも、突拍子もない既存インフラのキーワードを乱数的に組み合わせていけば、資本を投下して十二分に回収できるヒット企画は必ず生まれる、はずである。

Xビジネス調査チームとしては、宜保愛子や織田無道によって存在知名度の上がった、超々ニッチ市場である除霊・浄霊市場の解明にも取り組みたいところである。

(依藤 慎司)