クルマの事故と同じ、誰もが陥る可能性のあるデータの破損

「パソコンや携帯というツールが、一家に一台からひとりに一台となって久しい。それだけ情報のやりとりをこれらの機器に依存しているということでもあるが、比例して「事故」に遭遇する確率も上がっている。

パソコンや携帯、デジカメなどを使ううえでの「事故」のひとつは、データの破損である。身に覚えのある方も多くいるだろう。パソコンを使っている最中に電源が落ちた、ノートPCを持ち運んでいるときにガツンと落とした、デジカメからデータを抜き出す作業中に際にケーブルが抜けてしまった、携帯を携帯しすぎて入浴させてしまったなどなど、悲劇の事例は枚挙に暇(いとま)がない。

これらの行為の結果はいうまでもなくデータの破損である。データが読みだせない、再生できない。こうなってしまうと、もし納期直前の仕事のファイルなら減俸降格だけでは済まないことになるし、故人との思い出の詰まった画像なら「なぜ消した~」と故人が化けて出てきてしまうことになる(ほら、夏だし)。クルマと同じで、普及すればそれだけ事故の確率は上がるのだ。

データ復旧市場は種々多様

ここでまじめにデータ復旧市場の規模を見てみることにする。こういったトラブルへの対応業者は、大企業から個人と変わらない零細業者まで星の数ほどあるようで、当該市場にも業界団体というものが存在する。その名も「日本データ復旧教会」が発表した2016年12月に発表した市場規模によると、2015年1月~12月において、業界全体のハードディスクの復旧依頼件数は、前年比4700台増の85,700と推定されている。

パソコンの市場では出荷台数が頭打ちとなり低迷しているなか、この復旧依頼件数の増加は、パソコンをはじめとする情報機器の誤操作によるデータ消失、近年騒がれているコンピューターウイルス感染、低価格化によるNAS(ネットワークアタッチドストレージ、会社内・自宅内ネットワークなどでも使用される)の普及によるものなどが考えられる。

ただ、上記の数値は何らかの形で把握・報告・統計がなされたものであり、実際には個人ユーザーを中心に星の数ほどの把握しきれないデータ消失のトラブルが存在し、大きな市場になっているものと思われる。個人ユーザーを含めた「データ復旧」の市場規模を裏付ける数値として、Googleのアドワーズ(広告)で検証してみる。「データ復旧」というキーワードでデータ復旧(のソフトウェア)会社が広告を出すとすると、ユーザーの1クリックで2,604円(※)も費用が掛かるのだ。そのくらい競争の激しい、つまり(トラブルに対してこの表記は恐縮であるのだが)有望な市場であることが伺える。

※2017年7月現在、Googleキーワードプランナーの数値

データ復旧に必要な費用(=方法)も、フリーウェアソフトで修復できるものや、数千円のデータ復旧ソフトを購入して修復できるもの、数万円から数十万円を掛けて業者に依頼するもの、果ては「受け付けはお近くの窓口ですが実作業はアメリカの業者で行うのでお見積りで200万円以上です」という某商社まで、多様な形態がある。(筆者の注目しているのは物理障害を含めて一律料金という業者である)

不健全なのか? データ復旧市場



市場(需要)も拡大し、料金も方法も多種多彩、競争も激化。となるとそこに起こるのはお決まりのトラブルである。先述の日本データ復旧協会のキャッチコピーは「私たちはデータ復旧業界の健全化を目指します」である。このコピーの言葉をひっくり返せば、やはりデータ復旧業界は不健全なのであろう。

その理由は「素人には判断のつかない内容、見えないところでぼったくり放題」というところに尽きる。ひどい例では、「専業の法人、セキュリティ完備、クリーンルームでの熟練の担当者による分解作業、復旧率98.5%」と謳っておきながら、実際にはWebページだけが豪華な、アパートの一室での個人作業であったり、法人が窓口となって受付だけをして、実際の作業は協力会社(個人)に丸投げ、「熟練」も、市販のデータ復旧ソフトに掛けるだけ、それで対応できないと事前に判断した案件はハードディスクを返送して復旧率を上げているなど、悪い事例はいくらでも聞くことができる。

データ復旧依頼時にトラブルを避けるための6つのポイント


これらのトラブルを避けるため日本データ復旧教会が推奨するチェックポイントは6つある。

【 対応 】 依頼を煽るような対応がないか、事前に同意できる説明が行われているか。
【 規模 】 従業員がいる法人であるか、ネット上だけで受注している個人ではないか。
【 場所 】 所在地はバーチャルオフィスやマンション、自宅の一室などではないか。
【 環境 】 大事な情報を預けるにあたり、セキュリティや保管に適した施設であるか。
【 設備 】 高性能なデータ復旧ツール、クリーンルームなどの作業設備を整えているか。
【 認証 】 ISO、ISMS、Pマークなどの第三者認証を取得しているか。
(日本データ復旧協会Webページ「データ復旧サービスの信頼性について」より)

 

簡易なトラブルや単純な破損であれば、業者に依頼することなく個人で修復も可能なデータは確かにあるが、先述した物理障害(落としたりぶつけたりでハードディスク内の部品が壊れたり、電源も入らなくなってしまっているようなもの。電子データ・ファイルシステム自体の破損は論理障害と表現される)であれば、まず個人では復旧は不可能である。

データ復旧の対応は初動からの見極めが重要で、対応する手順を誤ると、普及できるデータも復旧できなくなってしまう。良かれと思ってある方法を行ったばかりにそのデータの痕跡すら削除してしまうこともあるのだ。特に論理障害の場合は、「手術」ともいえる所作が必要になり、音などでも診断していくところはまさに医者と同じ、職人の域なのである。確かな技術と正しい心、「医は仁術」とまったく同じ世界である。日本データ復旧協会の取り組みにXビジネスの志を見出す思いである。

データ復旧市場をXビジネスへ!

過去の資産であるPC内のデータが(不幸にして)データ復旧市場で取り扱われていくであろうと同時に、近年出荷されるPCにおいては、低価格化と大容量化によって、ハードディスクの代わりにSSDなどのフラッシュストレージを搭載したPCが多くなってきている。この物理的構造の転換により、旧来のような物理障害は起こりにくくなるであろうが、逆にそのストレージで必要になるデータ復旧技術は、より高度なものになっていくことだろう。時代は新たな技術に取り組むべき転換期に来ているのである。

なお、データのクラッシュという悲しみをなんとか技術で乗り越えたユーザーの一部はそのあとどうするか。予備のハードディスクを買いに走ったり、何かが憑いたようにNASサーバーを構築し始めたり、データ復旧の快感に味を占めてデータを破損した友人を探し求めたり、ビョーキが高じてデータ復旧会社を設立したり。。失敗は成功の元なのである。こうしてデータ復旧という分野に特化したXな人々が増殖していくことになる。それらの人々を健全に束ねることができれば、まさにXビジネス!

次回予告


最後にすべての話をひっくり返すようだが、逆に「どうあってもこのデータを完璧に消去したい、もっといえば復旧などできなくなるようにしたい!」という要望、市場も存在する。それは「データ消去サービス」市場なのだが、またどこかでお会いしたときにお話することにさせてもらう。ここだけど。