アニメ市場の定義

本項では、アニメーション制作会社の売上高を市場規模とする。アニメーション制作会社の売上高の内訳は、元請会社がテレビ局等から得る制作委託料(B to B)と、二次的利用による収入(B to C、ビデオ販売・商品化等によるマーチャンダイジング・海外販売・ネット等配信)、その他の収入となっている。

アニメ市場の客層

2016年9月に矢野経済研究所が実施した消費者アンケートより、「アニメオタク」を自認する消費者は日本国内に約600万人と推計。年代は19歳以下:19.0%、20代:34.9%、30代:22.2%、40代:13.5%、50代:8.0%、60代:2.3%で、20代がボリュームゾーンである。男女比は63.0%:37.0%と、約6:4と推定された。また、今年度より新たに調査項目として加えたオタク歴については5~15年未満がピークで39.0%。20年以上も35.4%に上り、平均は15.7年。

アニメは、就学前~小学生ぐらいの子供をメインターゲットとしたコンテンツと、それより上の年齢層を対象としたコンテンツに大別されるが、子供向けとされるコンテンツを愛好する成人も多く存在している。近年、自身を「アニメ好き」、「アニメオタク」「アニオタ」等と公言することに抵抗を感じない層、あるいは、「アニメ=流行のコンテンツ」とポジティブに捉える層が増えているとみられる。

アニメ市場の客単価

「アニメオタク」を自認する層が「アニメ」にかける金額(BD・DVD、劇場入場料、関連グッズ全般)は平均で年間29,843円。1万~5万円未満が最も多く30.6%だが、0円も27.2%とほぼ同程度を占める。

アニメ市場の構造

アニメ制作会社はテレビ局・広告代理店等と直接制作契約する元請会社と、元請会社から業務委託を受ける下請会社に大別される。

下請会社は、作品全体の制作を一括して受託する(「グロス受け」と呼ばれる)場合と、作画等部分的な業務を受託する場合がある。国内において元請会社は60社程度、下請会社は600社以上存在するものと推察される。下請会社に関しては、従業員が数人程度の規模であることが多くなっている。また、グロス受けした事業者から、更に別の会社もしくは個人事業者が工程の一部(企画・絵コンテ、原画、動画、仕上、美術等)を受注するケースも多く、アニメ業界は非常に複雑な構造となっている。

下請事業者や個人アニメーターは、受注金額が不明確、昔よりも高いクオリティが求められているにも関わらず報酬が昔から変わらない、修正作業(リテイク)を何度も求められる、納期が非常にタイトである等、労働環境が非常に厳しいことが多い。

こうしたことや、コスト削減等のためにより人件費の安い海外(主にアジア)の制作事業者に制作業務を発注するケースが増えていること等から、若手アニメーターが育ちにくい環境となっており、業界の課題の一つにも挙げられる。

制作費については、業界関係者へのヒアリング等から、30分間のアニメ作品1本当たりの平均的な制作費用は1,500万円程度と推定される。但し、比較的低コストで制作されていることもあれば、一部のコア層、マニア層向けに凝った作りにするため、それ以上の費用を投資している作品もあるという。

劇場版アニメ作品の制作費用は1本3~4億円程度とみられるが、制作期間が長期間に亘ったり、多額の広告宣伝費を投下した作品の場合には、数十億円に及ぶこともあるという。

アニメの製作体制については、テレビ局・広告代理店・商社・出版社・レコード会社・ビデオソフト制作会社・アニメ制作会社等複数の事業者から成る「製作委員会」が制作費を出資し、発生した利益を出資比率に応じて各事業者に分配するという形でのアニメ制作が主流となっている。「製作委員会方式」という事業モデルが生まれた背景として、特にアニメの制作・販売事業のみでは安定した収益の確保が困難となってきており、玩具やゲーム等へキャラクターのライセンス付与を行う版権事業や、ブルーレイ・DVD映像ソフト化等、コンテンツの二次利用によって収益をあげる必要性が高まっていることが挙げられる。

「製作委員会方式」では、当該コンテンツのブルーレイ・DVD販売が制作費回収のための主たる方法となっており、採算ラインは「約1万枚」と言われるが、競争激化、娯楽の多様化等により1作品当たりのブルーレイ・DVD販売枚数が減少し、赤字となるケースも増えている模様である。売れる作品と売れない作品の差が大きくなっており、違法コピーもブルーレイ・DVDの売上阻害要因である。そのため、関連グッズの企画・販売、有料コンテンツの配信等、ブルーレイ・DVD販売以外にも様々な方法で収益を確保することが課題である。

このほか、人材育成も当市場の大きな課題となっている。制作費削減のため、外国の下請会社に動画等を委託するケースが増え、熟練を要するアニメ制作ノウハウを持った人材が国内で育たなくなることが危惧される。先述の消費者調査の結果の通り20代が本市場を牽引しているが、この層の大半は子供時代からアニメに親しんでいる。つまり、短期的な利益に結びつきやすい「オタク」をターゲットとした作品だけでなく、将来の愛好者を育てるため、子供やその保護者が安心して見られるアニメ作品にも注力することが、業界の成長には不可欠と考えられる。

海外におけるアニメ愛好者が増えている反面、それがアニメ制作事業者の収益につながっていないことから、海外市場の開拓も引き続き課題となっている。

アニメ市場のトレンド、トピックス

●「君の名は。」が大ヒット

2016年8月に劇場公開された新海誠監督作品「君の名は」が劇場アニメとしては、スタジオジブリ以外では初となる興行収入100億円の大台を突破した。2016年10月16日現在、公開から52日間で154億1,448億8,300円に達した。また観客動員数は1,184万2,864人となっている。

アニメ市場規模 矢野経済研究所推計による2015年度におけるアニメーション制作会社の売上高ベースの市場規模は、前年度比1.3%増の2,300億円となった。アニメ制作本数の増加や配信コンテンツ売上が堅調に推移していることや、大手事業者の好調等から市場規模は拡大傾向と推計される。2016年度の市場規模は、主要事業者の業績予想が減少となっていること等から同4.3%減の2,200億円と予測する。

本稿の詳細データについては、下記調査レポートよりご入手いただけま。

クールジャパンマーケット/オタク市場の徹底研究