シャーロック・ホームズ。世界でもっとも有名な探偵であろう。ロンドンのベイカー街を拠点とし、難事件に挑む探偵である彼は、推理小説の登場人物である。作者はコナン・ドイル。コナンといえば、居候先の大人に催眠針をプスプスと突き刺して人の声色を偽装し、捜査権もないのに勝手に事件を解決していく某小学生の彼を思い浮かべるが、その名前の元になった作家の名前がコナン・ドイルなのだ。
日本では名探偵コナン(あ言っちゃった)の、世界ではシャーロック・ホームズシリーズの大人気のせいで、シャーロック・ホームズが現代の探偵であると思う人もいるかもしれない。シャーロック・ホームズシリーズがコナン・ドイルによって書かれたのは19世紀後半(ホームズ初登場の『緋色の研究』は1887年作)であり、たまに知らない人がいるのだが、シャーロック・ホームズは架空の人物なのだ。
ところがである。世の中には、シャーロック・ホームズを偏愛に心酔するあまり、ファンクラブの域を超えてシャーロック・ホームズを研究する団体が世界中に300あると言われているのだ。そこに集うヲタファンたちは「シャーロキアン」と呼ばれており、日々、自由に研究、議論を重ねているというのだ。
シャーロック・ホームズに関する市場をXビジネス的に斬る、それが本稿の目的である。
1.謎の集団「シャーロキアン」の傾向
2.日本にいるシャーロキアンたち
3.ビジネスモデルとしてのシャーロキアン
1.謎の集団「シャーロキアン」の傾向
これが「正体」なら話が早い。シャーロック・ホームズのファンである。マニアである。オタクである。フェチである。だがこれらの呼称でもまだまだ足りない。ようするに「始末が悪い」のである。
これは筆者の実体験なのだが。学生時代、同じサークルにこのシャーロキアンがいたのだ。彼は身の回りの事象をすべて推理考察に叩き込まないと済まないタチであった。
「今日の昼飯何にしようか」
「学食混んでるかなー」
などという会話を耳にしようものなら、
「ちょっと待って今日のシラバスの時間割だと予想される学生数は必修単位のコマの数と選択講座とその人気度による出席率それと天候とあーそれに君が何を食べたいかによって展開が違ってくるから昨夜や今朝の君の食事を推理すると」
「出たっ」
という暑苦しいヲタ推理が平和な日常生活のなかで炸裂するのである。ちなみに奴は服装にかかわらず例の帽子をかぶり、さすがにキャンバスには持ってこなかったようだが例のパイプを持っていた。就職活動時、大手システム開発会社に入社した彼。あれから20年、現実世界に戻ることはできたのであろうか。。
2.日本にいるシャーロキアンたち
このように、日々自由に研究、議論を(勝手に)重ねているシャーロキアンのなかで、「シャーロック・ホームズを皆で楽しもう」と集うシャーロキアンたちが存在する。多くは季節同人誌を含む私設サークルであるのだが、それらのなかで頭ひとつ抜きんでた存在がある。それが「日本シャーロック・ホームズ・クラブ」なのだ。
日本シャーロック・ホームズ・クラブ(JSHC)は、年会費4000円(入会金5000円)の会費を集め、会員誌「ベイカー街通信」(月刊)の制作、配布、イベント(セミナー・大会)の開催、更にはシャーロック・ホームズに関連した翻訳や作品・論文等に対して「日本シャーロック・ホームズ大賞」を設定し、年1回、表彰を行っている。
会員同士が研究成果をまとめ、出版物を刊行した事例もあり、これまでに「シャーロック・ホームズ大事典」(東京堂出版、2001年)、「名探偵シャーロック・ホームズ事典」(くもん出版、2012年)等が生み出されている。
つまり、マニアやヲタが自説を口角泡飛ばして好き勝手に議論と言う名の自己主張を繰り言しているのではなく、「研究し、論じ、共有し、世に問うている」のである。
3.ビジネスモデルとしてのシャーロキアン
シャーロック・ホームズをテーマにしたビジネスモデルというと、思い浮かぶのは
・出版物の販売
・グッズ販売
・イベント開催
などがある。なかでも(ファン以外にも)魅力を放つのは、旅行であろう。ロンドン旅行のパッケージツアーのなかに「シャーロック・ホームズを訪ねる ベイカー街探訪の旅」などの企画がある。そしてもちろん、ミステリーツアーよろしく、旅程のなかにシャーロック・ホームズを彷彿とさせる謎解き企画が組み込まれているのである。
先述の「日本シャーロック・ホームズ・クラブ」を例にすると、ビジネスモデルとしては、基本的に特定の作家・作品(=コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」)に対する「ファンクラブ」ビジネスとなる。「シャーロック・ホームズ」の読者は無数に存在するが、当該ビジネスは、日々シャーロック・ホームズの研究に勤しむ生粋のシャーロキアン(日本には最大700名程度存在か?)を囲い、会員サービスとして、情報提供、交流、啓発の場を提供していることが特徴である。
会員がその成果を「事典」として出版する事例もあり、単に愛好家のサロンという機能だけでなく、事業機会を創出するプラットフォーム機能を結果として備えてもいるのだ。
このプラットフォーム機能を抜き出して、あなたの偏愛する作品にあてはめてみてほしい。マイナーなマニアックなものほど、鋭角を持ち破壊力抜群のビジネスモデルができあがることと思う。当Xビジネスでもそのお手伝いをするので、これはというモデルを思いついた方はこちらまでご一報いただきたい。
Xビジネス・インキュベーション・プラットフォーム:
https://www.yano.co.jp/xbusiness/idea/index.php
(依藤 慎司)