シャンメリー。言葉を聞くだけでパブロフの犬状態でワクワクしてしまう人も多いのではないだうか。

家族と、友達と、職場の仲間と、クリスマスパーティで「ポン!」とやった、あの音。未成年の頃、多くのひとを大人の気分にさせてくれた、思い出の飲み物。これが本稿の主役、シャンメリーである。当コラムで採り上げるからには、じつはこのシャンメリーにもXビジネスな点があるのであった。

1.そういえばシャンメリーって何?って聞かれると
2.シャンメリーのビジネスモデルを斬る
3.全国シャンメリー協同組合、ココがX(エックス)!

1.そういえばシャンメリーって何?って聞かれると

誰もが知ってるシャンメリー。改めてナニときかれて、正確に答えられる人はいるだろうか。「クリスマスに飲むシャンパン」のイメージが強いが、皆のきおくのなかにあるとおり、家族みんなでお子様でも飲める「ジュース」である。

という単純なのみもものであるはずなのだが、実はこれがけっこう奥が深い。シャンメリーは、実は戦後の飲み物である。日本の敗戦と同時に進駐軍のアメリカ文化が一気に流入してきた戦後の1947年、進駐軍のパーティで飲まれていたのがアルコールとしてのシャンパン。日本のメーカーがそれを日本に普及させようと、類似品としてノンアルコールの似たような飲料を製造し始めたのが、その始まりなのである。

2.シャンメリーのビジネスモデルを斬る

飲料の製造にビジネスモデル?と思われるかもしれない。だがじつは存在しているのである。このシャンメリー、皆知っている日本人定番の胃腸薬、正露丸と同じなのである。

ここで話は飛ぶのだが、正露丸は戦前は征「露」丸と表記していた。露を征する、つまりはロシアを征伐するという意味である。もうおわかりだと思うが、征露丸=正露丸は、日露戦争の時代に登場した薬なのである。(日露)戦後、この征露丸は登録商標の対象から外れて、各メーカーが自由に「征露丸」の名前を使用して製造・販売してよいことになった。太平洋戦争後は、戦勝国(の一員のソ連)に遠慮したのであろう、征露丸ではなく現在の正露丸の名称になったのである。

さて。

本稿のテーマであるシャンメリーに戻るが、このシャンメリー、飲料の商品名であるのだが、正露丸と同じく特定の企業の登録商標となっていない。「全国シャンメリー協同組合」による商標登録がなされており、組合員企業がその名称を使用して製造・販売を行っている。同時に「分野調整法」という法律によって、大手企業はその製造に参入していない。
つまり、各中小メーカーが自由に参入でき、「シャンメリー」の名前でこのノンアルコールシャンパン風飲料を自由に製造・販売してよいのである。その結果、中小の飲料メーカーが「売れる定番のシャンメリーの名称」を利用して市場に参入することにつながり、現在ではハタ鉱泉(大阪府)、トンボ飲料(富山県)、木村飲料(静岡県)、斎藤飲料工業(広島県)などの聞いたことのない企業が主要な製造メーカーとして名を連ねている。

その結果、シャンメリーは各企業の自由な参入・競争により、他の飲料と比較して実に多種多様の製品が登場しているのである。

3.全国シャンメリー協同組合、ココがX(エックス)!

まず第一に、なんといっても「あたりまえ」を創造したことに尽きる。考えてみてほしい。例えばカレーやラーメン。これらは日本の国民食といっても過言ではないくらいポピュラーな食べ物である(インド人が日本のカレーを食べて「これはうまいなんという食べ物だ」と言ったとか言わないとか)。だがカレーもラーメンも日本には主に明治期に入ってきたものであり(はじめてラーメンを食べたのは水戸黄門だったとか)、日本のれきしのなかでここ150年ちよっとの時間の間に「あたりまえ」の文化になったものである。これは地味にすごいことなのである。

同様に、戦後日本でクリスマスパーティで「あたりまえ」となったシャンメリー。戦後80年程度ですっかり日本の文化の一部となってしまった。実際に、それまでなかった文化を定着させることの難しさ。あの大人気のタピオカドリンクですら足元にも及ばない。これまたすごいことなのである。


そして第二に、この「あたりまえ」を、大企業ではなく小規模事業者が共創したということである。全国シャンメリー協同組合という団体の存在によって、中小企業メーカーが団結して特定の商品を安定的に製造し、外国文化であるにもかかわらず日本人の「ソウルドリンク」としてシャンメリーを定期用し続けているのだ。これを競争ではなく「共創」で創り上げたこの事実、クリスマスにはぜひ、クリスマスでなくとも思い出してほしいものである。

(依藤 慎司)


全国シャンメリー起用同組合
http://www.e-drink.jp/chanmery/

2020年版 飲料市場の現状と展望
https://www.yano.co.jp/market_reports/C62105400