スープの無いカップ焼きそばなんて・・・

 この「マーケティングコラム」では、飲み物、カップ麺等のマーケティングについて、Xビジネスの視点で語っていきたいと思います。(前回は、「ミリンダ ストロベリー」について書きました。幻の飲料「ミリンダ ストロベリー」は今どこに?参照)今回、カップ焼きそばについて、論じます。

 皆さん、カップ焼きそば、お好きですよね?「UFO」(日清食品)、「ペヤング ソース焼きそば」(まるか食品)、「一平ちゃん」(明星食品)、あたりがメジャーなんでしょうか?
 前回のコラムでも書いたのですが、札幌、広島、静岡は、「マーケティング」の街でして、それらの街では首都圏で発売される前のカップ麺、ジュースが販売され、その売れ行きで、首都圏に実際に投入するかどうか決められる・・・そういった類の人体・・・いや実証実験の場になっております。ですので、カップ麺についても、「札幌」「広島」「静岡」にしか売っていないものが比較的多い訳です。
 で、札幌を代表する、地域限定カップ焼きそば、といえば・・・それは「焼きそば弁当」(という名のカップ焼きそば/東洋水産)なんですね。

 ま、札幌および北海道ですね。私は、出身が札幌で今は東京に住んでいるので分かるのですが、カップ焼きそばの銘柄として「焼きそば弁当」を知っている人は、北海道関係の人しか存在しないのです。逆に、札幌の人に「ペヤング」といっても、「はあ?若者向けのアパレル?ユニクロ?」みたいな印象な訳です。

 で、ある日、札幌から、東北地方に初めて旅行した人が、衝撃を受ける訳です。あれ?スーパーに「焼きそば弁当」が無い!でも、「バゴォーン」という名の「焼きそば弁当」が売られている!と。しかも名前が「バゴォーン」!?ププっ・・・て、なるのです。東北の人にはお馴染みの「バゴォーン」という東洋水産のカップ焼きそばは、「焼きそば弁当」がベースになっているものなんですよね。しかも「バゴォーン」という名称は、昔々、北海道限定の「焼きそば弁当」のローカルTVCMで、お笑いと音楽の二足のわらじで人気を博していたバブルガム・ブラザーズ(メンバーのブラザー・トム/小柳トムさんは今でもよくメディアに出てますね)が、最後に「焼きそば弁当 バゴォーン」という決めセリフを言うのがありまして、そこから来ているんす。当時、バブルガム・ブラザーズって、警察官のコントとかよくやっていて、拳銃を打つ仕草で「バゴォーン」とか言ってウケてたわけです。札幌人からすれば、え?あの、ギャグセリフが、そのまま「焼きそば弁当」の商品名になって、東北で売られてるの?となる訳ですね。だからププっなんです。

 まあ、マーケティング的に言えば、ローカル商品を全国展開する際に、リブランディング(ブランド再構築)した、ということになります。北海道では「焼きそば弁当」が完全に定着しているのでブランドはそのままに、新たに市場開拓を行う東北では、全国区の人気コメディアン・歌手のバブルガム・ブラザーズの「バゴォーン」をブランドとして押し出した、と。(※これは、私の解釈ですので、事実誤認がありましたらご指摘下さいませ、東洋水産様)

 かくして「焼きそば弁当」は、津軽海峡を越え「バゴォーン」になり、東北に定着、信越地方にまで拡大したそうなのですが・・、肝心の首都圏では、殆ど見かけません。どうしてなんでしょうか?これは諸説ありますが・・。私の私見ですが、「スープ」文化の違いかと思います。幼少の頃から、カップ焼きそばといえば「UFO」「ペヤング」で育った方には、カップ焼きそばに「スープ」が付いている、のは違和感なのでしょう。一方「焼きそば弁当」「バゴォーン」には、必ず粉末のスープが付いているのです。このスープ、どうやって食べるかというと、カップ焼きそばの麺を熱湯でふやかしますよね?で、その時の湯は流しにジャーっと捨てますよね?皆さん? でも、「焼きそば弁当」「バゴォーン」では、流しになんか、湯を捨てませんぜ・。まるで、蕎麦湯のように、白く濁った、その(体に悪いかもですが)カップ麺をふやかした残り湯を・・・自分で用意したマグカップに注いで、スープ粉末を溶かして、マイルドなスープにするのです!そうです、「焼きそば弁当」「バゴォーン」では、必ず、焼きそば麺を食しながら、その捨て湯で作ったカップスープを飲むのです。その「麺」と「スープ」のハーモニーを楽しむのです。

 「札幌人あるある」ですが、東京で初めて「ペヤング ソース焼きそば」を買ったときに、「スープが付いてないんですけど~」と店員に文句を言う(=スープが付いていないカップ焼きそばは、欠陥商品と勘違いする)ケースが散見されるんす。(他の人を確認したわけでは無いですが、少なくとも私は危うくクレームあげそうになりました)

 で、もう一つの「札幌人あるある」ですが、内地(=本州)から客人を迎え入れて、例えばスキーかなんかの旅行に行って、夜食にカップ焼きそばでも食おうか?いいね、なんて流れで、「焼きそば弁当」に湯を注ぎ・・、3分経ったんで、さて、という時に、地元人は捨て湯を使って、カップスープを作り始め、内地から来た人はそれを見て「はああ?何してんの?そんな麺をふやかしたヤバい汁でスープ??体に悪くね?」と驚くのです。いやいや「カップ焼きそば」は「スープ」のために食っているようなもんでしょ?→あ?アホか、信じられね・・・みたいな論争が勃発する・・・よくある光景ですね・・はい。

 「カップ焼きそば」の黎明期(30~40年前?)に捨て湯でスープが当たり前の北海道および一部の東北人と、それ以外の「UFO」「ペヤング」等の「スープ無し」で育った人達。ここに、恐ろしい壁が生じたんですね。かくして、スープ付きの「焼きそば弁当」「バゴォーン」は、文化の違う首都圏には定着しなかった訳でございます・・。

ああ、「焼きそば弁当」の「スープ」飲みたい!

(松島勝人)

関連資料:

2020 クールジャパンマーケット/オタク市場の徹底研究
https://www.yano.co.jp/market_reports/C62108100

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