【社会科オタク】高校地理必修化で考える地政学のススメ

 先日タモリが出演する某深夜番組にて、2022年から高校で地理が必修科目になることを知った。情報源が深夜番組というのもアレなので少し紐解くと、2018年の学習指導要領の改訂により、2022年から高校で「地理総合」が新たに必修科目となることが決定している。1973年実施の学習指導要領で地理は必修でなくなり、さらに1989年には地理歴史科の中で世界史のみが必修、日本史と地理は選択科目となり、入試科目として地理を設置しない大学が増えるなど高校での地理履修者が減少した経緯がある。それからすると地理はおよそ50年ぶりに必修科目に返り咲いたこととなる。

 先日弊社の業務で取材先に向かう際、自信満々で方向を間違えてしまい同行の後輩に引率してもらうという大失態を犯す程の方向音痴な筆者にとっては、自分の学生時代に実現して欲しかった出来事だ。

 そうした背景はさておき、皆さんはそもそも社会科科目がお好きだろうか。社会科科目の定義も時代によって変わるが、筆者の認識では歴史、地理、政治経済、倫理といった科目に分けられ、何よりテストや受験においては「暗記科目」として認知されている分野だ。暗記が苦手な方は覚えるのが苦痛だったり、覚えて何の役に立つかわからないという経験をしたことだろう。

 片や、理系科目が壊滅的に苦手で今でもロジカルシンキングに難がある筆者にとっては、ただ“覚えるだけ”で一応点が取れてしまい、ある程度の点数勘定ができる社会科科目には幾度となく救われたものだ。それゆえに社会科科目には今なお親近感を持ち、特に歴史は小説や漫画、ドラマ、ゲーム、城めぐり等を通じて嗜んでいる。

 そんな学生時代を遥か遠い記憶に残すようになり、社会人として日々の業務に追われる中、書店でふと「地政学」に関する入門書が目に留まった。先の地理必修化の件もあり、昨今の複雑化した世界情勢の背景を今一度学び理解するきっかけにもなろうと手にしたのだが、これが実に“オタク心”を刺激する内容であった。

 地政学とは、平たく言うと地理学と政治学を合成した学問である。地理的な環境が国家に与える政治的、軍事的、経済的な影響を巨視的な視点で研究する。そこには地理と政治のほか、現在に至るまでの歴史、各国の経済状況、宗教、哲学思想などの要素も加わるため、ある意味では学校で学ぶ社会科科目の要素を全て含む学問と見ることができる。

 現在の世界の大きな情勢と言えば、米国と中国という二大大国の対立や、それに対する各国の立ち振る舞いなどがある。それぞれの思惑や本音ではどう考えているのか。特に地政学的視点では、大陸国家のランドパワー(大陸勢力、中国・ロシアなど)と海洋国家のシーパワー(海上勢力、米国・英国など)、さらにランドパワーとシーパワーの接触地帯となり、両勢力とのバランスが求められるリムランド(主にユーラシア大陸周縁部)といった地理的要因に基づく大きな概念があり、これらが国家の行動を“こうしたい”という以上にむしろ“こうせざるを得ない”という方向に導いていることが非常に興味深い。大陸で他国と国境を接していることや、島国で海に囲まれていることは長所にも短所にもなり、国家としての戦略や指針、さらには国独自の思想を生み出す背景にもなっている。

 ところで急に話がぶっ飛んで恐縮だが、皆さんは「信長の野望」というテレビゲームをご存じだろうか。1983年に現コーエーテクモゲームスが世に出した、日本の戦国時代をテーマとした歴史シミュレーションゲームシリーズだ。織田信長をはじめとする戦国大名となり、自国の富国強兵を図りながら合戦で領土を拡大し、天下統一を目指すゲームである。

 織田信長に限らず、好きな大名や地元と縁のある大名を選択するもよし。日本各地から天下を統一する野望を胸にゲームスタート…となるのだが、このゲーム、最初にどの大名を選択するかがゲーム攻略において非常に重要である。大名自身の能力や家臣の能力もさることながら、自国領土の周辺にどのような大名が隣接しているか、領土を広げるにはどのようなルートを取っていくべきか、どの国と同盟を結ぶべきかなど、ゲーム中における行動・選択は大名の最初の領土の位置が大きく関係する。さらには災害の起こりやすさなど、支配する土地の特性などもゲームの進行に影響を与える。

 ここまで述べてお気づきになっただろうか。これはまさに「地理的な環境が国家に与える政治的、軍事的、経済的な影響」であり、先に述べた「地政学」そのものと言えるのではないだろうか。筆者が「信長の野望」で体験した国家運営戦略の視点や思考は、まさに地政学であったことに気付かされた。そして地政学的な視点で世界を見ると、この世界はまさしくリアルな「信長の野望」であると言っても過言ではない気がする。世界中に割拠する大名(=国家指導者)が、自国の繁栄を求めて他国とのせめぎ合いをリアルな世界でまさに今も繰り広げているのだ。オタクは自分の趣味嗜好がリアルな世界と繋がった瞬間に魂が震えるものだが、地政学がきっかけになるとは思いもしなかった。

 人類の歴史とはとどのつまり土地や領土の奪い合いの経緯であり、その過程で政治や経済が生まれ、さらに根底には哲学や倫理がある。社会科は科目が分かれているようでいて実際は1つに繋がっている。冒頭に述べた高校地理必修化の流れもある中では、「地政学」の視点を持つことで、社会科科目は暗記科目という偏見を払拭できるかもしれない。さらには地政学的な視点で国際ニュースや世界情勢を眺めれば、より一層興味が増すのではないだろうか。

(本当はギレンの野望が好きな)横山秀彰

関連資料:

2020 クールジャパンマーケット/オタク市場の徹底研究
https://www.yano.co.jp/market_reports/C62108100

関連リンク:

東京書籍
https://www.tokyo-shoseki.co.jp/

コーエーテクモゲームス 信長の野望
https://www.gamecity.ne.jp/nobunaga330/

バンダイナムコゲームス 新ギレンの野望
http://www.b.bngi-channel.jp/gihren/