お一人様の敷居を下げるのはドラマ・アニメ・漫画

お一人様ビジネスの事例の代表例のひとつは、「一人焼肉」であろう。二人以上で食べるイベントごはんとの認識のもと、(特に女子)一人で食べるのは気が引ける、でも食べたい、そんな消費者のココロの揺れを具現化しているビジネスなのである。
みんなでワイワイと騒ぎながら食べる食事は美味しい。だが、複数の人と食べに行○ない人も世の中には存在する。言葉の分岐はさておいて、お一人様食事の目的は、つまるところ「一人で(も)気兼ねなく美味しいものを食べたい!」ということに尽きる。

現在では、一人焼肉、一人ラーメン、一人居酒屋などの利用形態や来店客は珍しくなく、むしろ当然となってきている。その背景のひとつが、「お一人様」をあおるコンテンツの人気である。食のお一人様ビジネスにおいては、ドラマ・アニメ・漫画などの「お一人様グルメ」コンテンツとして「孤独のグルメ」「ワカコ酒」を二大巨頭に「個食ロボット」「百合子のひとりめし」「三十路飯」、異色の「鬱ごはん」など無数の「お一人様グルメ」コンテンツがある。「孤独のグルメ」「ワカコ酒」の主人公たちは、誰にも邪魔されることなく食を楽しむ様(さま)が読者に受けている。その追体験は、ただ同じ店に食事に行くということだけで実現できる。そのためなら「ゴローさんやワカコだって、美味しいもののために普通に一人で行ってるじゃない(か)」と、お一人様でお店に向かうことの敷居が下がっていくのである。

 

「お一人様ビジネス」の失敗事例

いきなり失敗話で恐縮だが、事例として注目すべきなのは、業態自体を「お一人様」仕様として展開していた店舗である。

日本ケンタッキー・フライド・チキンでは、お一人様需要を見込んだ、持ち帰りから揚げ専門店「鶏から亭」を2013年の10月に新規事業として開店させている。「お持ち帰り需要の高いショッピングセンターや商店街などを中心に出店してまいります」との触れ込みで店舗展開していったのである。
また、牛丼チェーンの吉野家も、2013年9月にお一人様専用鍋のみの業態で「いちなべ家」をオープンさせている。営業時間は24時間ではなく午前11時から午後10時まで。メインターゲットは20~30代の働く男女としており、1人または2人での来店を見込んでいる。メニューも「牛すき鍋」「ちゃんこ鍋」「坦々餃子鍋」「豚しゃぶ鍋」「きのこと鶏だんご鍋」「豆乳鍋」「キムチチゲ」と、通いつめても飽きのこないように多種を取り揃えていた。価格は800円平均であり、お一人様外食の十分な許容範囲といえる。

話をひっくり返してしまうが、この「鶏から亭」と「いちなべ屋」のチェーンは、2017年10月のいま、すでに存在していない。
「とりから亭」は、2013年10月に第一号店が東京都内に開店し、最盛期に6店舗まで展開していたが、2016年に最後の店舗が閉店して事業自体が消滅している。
「いちなべ屋」は、2013年9月の営業開始から2014年の11月まで東京都内に1店舗を出店したのみで、わずか1年ほどで事業自体をクローズしている。

 

 

両事業とも顧客のニーズを取り込むことができなかった結果であるが、「とりから亭」は、当時のから揚げブームで大資本から個人店舗まで競争が激しかったことが事業撤退の理由のひとつである。「いちなべ屋」は、ひとりで単価800円程度の鍋を楽しむことに対して、利用者のなかで「ひとりでもお店の鍋が食べられる!」から「お店でひとりで鍋を食べててもなぁ・・・」と意識が変わったのかどうかは定かではない。ひとつ言えるのは、「ひとりメシで800円を出すならほかのものを食べよう(ほかの場所に行こう)」という意識に「業態が負けた」ということである。

事業の当たりハズレはマーケティングが必要であるが、あらためて「お一人様」顧客を考察してみると、「お一人様市場の限られたパイのなかで、お一人様対応の店舗の利用者は、(いかにも一人で消費活動をしそうな)未婚者やシニアが多いとは限らない」のである。事業者側はサービスを競い、「黙って待っていては見つけられないお一人様需要を掘り起こすことで、客数の増加と単価の上昇を狙わなければならない」のだ。

前述の「とりから亭」と「いちなべ屋」の事例をみる限り、「お一人様顧客は単価が総じて低く、それでいて商品提供までの流通や手間は既存の(全体包含的な)顧客層と変わらず、それゆえに、短時間に大量に提供できる商品・サービス以外はビジネスとして成立しにくい」ということが、ひとつの傾向として言えるのである。


次稿では、お一人様ビジネスの成功事例を考察していく。