商客数減少のなかで単価は上昇、「一人カラオケ」
前稿で、お一人様ビジネスの代表例のひとつとして「一人焼肉」を挙げたが、更なる代表例は「一人カラオケ」である。焼肉と同じく、カラオケ自体も典型的な二人以上イベントではあるが、歌いたいけど人前で歌うのは恥ずかしい、一人で練習したいなど、これまたの消費者のココロの揺れを具現化している利用形態なのである。ちょっと変わったものとしては、朗読会、語学の発音練習、プレゼンの練習などの利用目的などがある。(お一人様利用ではないのだが、筆者はカラオケルームで怪談会を開催した。いいぞぅ。。)
日本生産性本部発刊の「レジャー白書」によると、2015年のカラオケルームの市場規模は前年比0.5パーセント増加の4,000億円で、5年連続の増加となっている。対前年比推移では2015年は前年と同一であり、やや増加傾向が低迷した感がある。今後の予測では2016年(見込み)での市場規模は4,120億円、対前年比103.0パーセント、2017年の予測は市場規模4,300億円、対前年比104.4%との増加傾向が続くと予測される。
カラオケルーム市場規模推移
出典:日本生産性本部「レジャー白書」2016年 2017年は矢野経済研究所推計
「お一人様」に関連する数値としてカラオケルームの利用者数に目を向けてみると、2014年に増加した利用者が2015年には再度減少(3,160万人、前年比92.9パーセント)となっている。利用者数が減少しながら市場規模金額が拡大しているという状況は、利用者の利用金額が増加しているということである。これは、一因としてお一人様利用が増加(カラオケルーム利用料金を頭数で割った金額よりも、一人利用の単価のほうが高い)していることを示唆している。
カラオケルーム利用者数・対前年比推移
出典:日本生産性本部「レジャー白書」2016年 2017年は矢野経済研究所推計
そして実際に、費用の推移では2015年の一人当たりの年間平均費用は11,000円で、2014年の10,500円から4.8パーセント増加となっている。カラオケルーム利用の年間費用の推移では2012年の14,400円が高く、2013年に10,000円に減少したが、そこから増加傾向になっており、今後も年間5パーセント程度の増加が続くと予測される。
出典:日本生産性本部「レジャー白書」2016年 2017年は矢野経済研究所推計
改めて、「一人カラオケ」とは、一人でのカラオケ利用者のことであり、施設的には一人専用の個室型カラオケのことである。この市場の動きに合わせて、コンパクトな一人用カラオケルームの設置も行われるようになっている。
「一人カラオケ」の利用動向を調査したアンケート調査「J-Net21業種別スタートアップガイド/消費者利用動向」では、「一人用カラオケボックス」の利用経験者は、20代男性が8パーセント、30代男性が6パーセントという利用率であった。他の年代性別では1パーセント~3パーセント程度となっているが、市場全体では今後も一人カラオケが普及していくことが見込まれている。
お一人様ビジネスのセオリーとなっている高齢者向けサービスの充実(カラオケではオフタイムとなる平日昼間料金の値下げ等)により、高齢者の利用率の上昇が市場拡大の大きな要因になると推察される。
既存インフラの活用が「負けないお一人様ビジネス」
前回、「お一人様顧客は単価が総じて低く、それでいて商品提供までの流通や手間は既存の(全体包含的な)顧客層と変わらず、それゆえに、短時間に大量に提供できる商品・サービス以外はビジネスとして成立しにくい」と書いた。二つの飲食店の事例はこれに引っかかった形であったが、「お一人様カラオケ」市場は、この注意点をうまく回避できている好例である。
ピーク時は通常料金で、オフタイムに料金を下げてお一人様利用者を誘発し、それでいて店内の改装も特別なオペレーションも必要なく、年齢性別に関わらずオプション的なフード・ドリンクの提供なども通常時とほぼ変わることがない。大きく利益を生むというより、「投資的危険のないスキマの活用」で利益を創出しているのである。
幾分か攻めに転じている業態としては「多目的ルーム」があり、カラオケや仮眠、学習スペースなど様々に利用されている。もちろんこれもお一人様の利用を誘発している。
専業で「勝つ」のではなく、既存のインフラ・業態を活用した「負けない」ビジネスであることが、そもそもが隙間市場である「お一人様ビジネス」に対応しやすい営業形態であるといえるだろう。(この稿続く)
(依藤 慎司)