様々なアイディアでタクシー業界を暴走疾走し続けるその様子について、特異ぶりを業界の抱える問題と共に前稿で斬ってきた。本稿はその続編である。同社の勢いはとどまるところを知らない。。

  1. タクシー業界の市場動向 -いきなりだが最大の課題はこれ-(前稿)
  2. タートルタクシー、タクシーホイッスル、SP風タクシー。。(前稿)
  3. 忍者でタクシー、タクシー流鏑馬、心霊スポット巡礼ツアー、ドローンタクシー。。
  4. その会社、三和交通
  5. 三和交通、「ザ・ビジョナリー」に出てます

3.忍者でタクシー、タクシー流鏑馬、心霊スポット巡礼ツアー、ドローンタクシー。。

忍者でタクシー

Xビジネス度:★★☆☆☆

画像は「三和交通 NINJA DE TAXI忍者でタクシー」より引用

「SP風タクシー」の忍者版である。これも通常料金プラス1,000円で配車可能。SPとの違いは、水鉄砲ではなく手裏剣(紙製)を装備し、「忍者用語」で対応することにある。外国人にはウケるかもしれない…が、ドライバーへの罰ゲームにしか見えない。なお、この忍者もSP同様「弱い」そうである。

タクシー流鏑馬

Xビジネス度:★☆☆☆☆

画像は「三和交通 タクシー流鏑馬」より引用

…何のために?
こういう様子だったらしい。。

画像は「三和交通 タクシー流鏑馬」より引用

心霊スポット巡礼ツアー

Xビジネス度:★★★★★★★★★★★★★★★★

本命。これを書きたくて本稿を立てたようなものである。2015年に始まったこのツアーは、タクシーで心霊スポットを巡るという前代未聞の企画である。開始当初は「三和交通・タクシーで逝く心霊スポット巡礼ツアー あなたの知らないタクシーの世界」と銘打っていた。料金はタクシー一台で6,000円。翌2016年にも同企画で「〜鬼哭啾啾な多摩編〜」が実施された。恐怖度の異なる「ショートコース(120分)」「ロングコース(180分)」「昼コース」「夜コース」など、更に趣向を凝らしたものとなった。
回を重ねて今年の2018年も、このツアーは開催された。申し込みは今年も抽選となり、倍率は19倍であったという。
その内容について、恐怖度最高設定の「心霊スポット巡礼ツアー 京 ETERNAL FORCE BLIZZARDコース」を一例として挙げる。このツアーは深夜に新宿駅を出発し、「超有名なあのトンネル」「都心の真ん中の墓地」「祟りがあると言われ大都会に留まる祠」「小高い丘に佇む社」「多くの自殺者がでているスポット」「旧道を入って行った先に・・・」「某ローカル線の小さなトンネル」「重く冷たい空気を感じるスポット」「今は使われていないトンネル」「東京駅」などの心霊スポットを巡っていくという内容であった。運行時間は5.5時間(!)である。

画像は「三和交通タクシーで行く 心霊スポット巡礼ツアー2018」より引用

このツアーは、行き先も内容も「つくり・仕込み」は何もない。何も起こらなければ、ただ「怖かった」で終わる。だが、起こったら起こったで、ツアー道中に心霊写真が撮れてしまうのをはじめとして、「ツアーで心霊スポットの公園に行ったら、誰もいないブランコが10分以上揺れたまま止まらなかった」等の怪奇現象が(期待通り?)起きているそうである。ドライバーのなかには普段の乗務で幽霊を乗客として乗せた経験者もおり、その人はテレビの心霊特番にも登場している。
このツアーは同社の数々の企画のなかでも代表格であり、様々なメディアで紹介されていると同時に、ニコニコ動画でもツアー当日の様子が生中継で配信されている。

ドローンタクシー

Xビジネス度:測定不能

…コレ↑そのものに、もはや何も言うことはない。。

だが、ドローンでの人命救助の実例や、2017年には一人乗りの機体がドバイで試験飛行を行うなど、ドローンタクシーの実現は決して絵空事の話ではないのである。

画像は「theverge.com Ehang's autonomous helicopter promises to fly you anywhere, no pilot required」より引用

4.その会社、三和交通

これほど「真面目にふざける」事業内容を取り揃える会社とは、いったいどんな会社なのだろうか。仮にも(仮じゃないんだけど)事業免許の必要な、タクシー会社である。

…こういう会社である。↓(本当)

画像は「三和交通株式会社」Webサイトより引用

本コラムのタイトルでも触れているとおり、業界では老舗であり、その設立は1965年。本社は神奈川県横浜市にある。車両台数は563台で、業界では中堅規模である。地域社会への貢献を謳い、業績も堅調に推移している。特にここ数年は「心霊スポット巡礼ツアー」等の企画でメディアへの露出が多くなり、その知名度が急上昇していることも好調な業績の一因となっている。実際、それまで新卒者向け会社説明会で三和交通の名前を知っていた学生はほとんどいなかったそうだが、近年の説明会では半分以上の学生が知っていたという。

三和交通株式会社 業績推移

画像は「三和交通株式会社」Webサイトより引用

Xビジネスとして注目すべきは、タクシー会社の既成概念を超えた数々の「ぶっ飛んだ」企画力と実行力の背景である。「心霊スポット巡礼ツアー」や「ドローンタクシー」「タクシー流鏑馬」などの今までにない数々の企画の発想は、新卒社員が中心となって実現したものであるという。だが、アイディアはいくらでも思いつくことはできるが、それにGOサインを出すことのほうが、よほど難しい。ましてや安全第一の運輸業事業者である。じつはこれらの企画の最終決断は、すべて代表取締役の吉永永一氏による「強い」判断だという。ぶっ飛んだ企画ならなんでも無条件に採用しているわけではなく、一例を挙げると「心霊スポット巡礼ツアー」ですら、あれだけの大反響であるにもかかわらず、三和交通では企画の中止も考えていたのである。2018年の夏の終わりに同社の公式ツイッターの「中の人」が、「心霊ツアー凍結案が上層部から出ています。来年開催の為には1万RTの条件を出されました(泣)」とツイートしたところ、数日後には見事に1万RTを突破した。(Xビジネスのアカウントも当然協力)好調な企画でも、常に需要と供給のバランスをみて見直しを図っているのである。

同社では、これらの企画を「アテンションエコノミー」と位置付けて、積極的に新しいサービスに挑戦し続けている。

確かに「面白い会社」ではあるのだが、そもそもタクシーは運輸業であり、遊園地のアトラクションではない。心霊だのSP風だのと遊んでいて、本業のタクシー会社としての顧客満足度が低かったり、しょっちゅう車両事故を起こしているようでは本末転倒である。車両を運行する以上、完全な無事故無違反というのは相当に敷居の高い所作であると思われるのだが、実際のところ安全性はどうなのだろうか。

意地悪く関連資料を漁ったところ、国土交通省が運輸業者に義務付けている「自動車事故報告規則」という報告書が存在していることがわかった。三和交通も当然ながら、該当する事故を起こせば、その旨の報告書を国土交通省に提出しなければならない。

同社が国土交通省に提出した報告書の内容を見ることができた。「自動車事故報告規則第2条に規定する事故に関する統計」をみると、報告義務のある事故に関する統計において、平成29年4月から平成30年3月において「0件」なのである。

「ふざけてふざける」会社であれば、本来求められるサービスの質の低下で顧客にもそっぽを向かれ、霊の取り憑いたタクシーが事故を起こしていずれ廃業となるだけである。同社の好調な業績の堅持は、あくまで「真面目に」ふざけているからこそであり、だからこそ輸送の安全に関して限りなく低い事故率を達成しているのである。(霊現象遭遇率の統計をとっていたらぜひ開示してほしいところである。。)

5.三和交通、「ザ・ビジョナリー」に出てます

この、Xビジネスコラム史上最高に怪しい(注:褒めてる)「真面目にふざける老舗タクシー会社」三和交通について、テレビ番組「ザ・ビジョナリー ~異才の花押~」で紹介している。放送日は9月18日火曜日であり、東京MXTVで19:58~20:27の時間帯である。番組中の「Xビジネスコーナー」で、Xビジネス的な視点から考察・紹介しているので、ぜひ本稿と合わせて視聴してもらいたい。

タクシー業界を志したなら、同社で働いてみたいと思わせてくれる企業である。

(依藤 慎司)

関連資料:

2018年度版 位置情報/地図情報活用ビジネス市場
https://www.yano.co.jp/market_reports/C60100200

2018 シェアリングエコノミー市場の実態と展望 ~民泊/カーシェア/駐車場予約/クラウドソーシング・ファンディング~
https://www.yano.co.jp/market_reports/C60105000

2018年度版 商用車テレマティクス/コネクテッドカー市場予測
https://www.yano.co.jp/market_reports/C60109000

2019 サービス産業白書
https://www.yano.co.jp/market_reports/C60114700

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