前項では、交通インフラのなかでの鉄道の役割と、市場の構造や規模について論じてきた。本稿では市場の「X(エックス)な」ビジネス事例と、鉄道業界教育の一端を担う学校の実態と展望について迫ってみたい。


1. 交通インフラのなかでの鉄道の役割 (前稿)
2. 鉄道市場の構造と市場規模(前稿)

3. 鉄道事業者のXビジネスな事例(本稿)
4. その名前、「東京交通短期大学」(本稿)
5. 「東京交通短期大学」が「Xビジネスフェス2020in 池袋」に降臨!(本稿)

 

3.鉄道事業者のXビジネスな事例

鉄道事業者であるからには当然、線路を敷いて車両を走らせ、その運賃で利益を出すことで事業を成り立たせている。そして実際には、鉄道事業者は鉄道以外にも非常に多岐にわたる事業を展開している。
大規模な駅は商業施設を兼ねており、そこでは弁当や軽食等を販売する流通・サービス業が行われている。また同時に、「駅ビル」規模の場合には、オフィスフロアの賃貸や商業施設のテナント料収益など、不動産事業も収益の大きな柱となっている。特に私鉄の場合、鉄道会社名が百貨店名となっている事例が数多くみられる。同様に、プロ野球球団の経営事業も存在する。
そのほかにも、切符の電子化=ICカードを基盤とした電子マネーやクレジットカードなどの金融事業も、鉄道事業者の手掛ける事業のひとつとなっている。
また、レジャー施設の運営も事業のひとつとなっており、としまえん(西武鉄道、西武グループ)、東武ワールドスクウェア(東武鉄道、東武グループ)、宝塚(阪急電鉄、阪急阪神東宝グループ)などがある。これらはレジャー施設への路線利用の誘致を兼ねている。

このように多岐にわたる鉄道事業のなかで、Xビジネスとして注目したいのは最近流行りの「サブスク」である。これはもうひとつ学校に通うことではなく、「サブスクリプション」の略である。使いたい放題のようなイメージがあるが、実際には「一定の期間、一定の金額を支払うことでサービスを利用する」ことである。
東急鉄道を擁する東急グループが2020年の3月から実証実験を開始する「東急線・東急バス サブスクパス」は、東急グループの交通インフラ、アミューズメント施設などを利用できる定額制サブスクである。言い換えると、一定の金額を支払えば、東急電鉄と東急バスが乗り放題、109シネマズで映画見放題、駅構内のそば屋で食べ放題、というものである。
簡単に内容を紹介すると、

東急線・東急バス サブスクパス:1万8000円~3万6500円(組み合わせによる。有効期限一か月)

比較対象として、

東急線・東急バス 一日乗り放題パス:1000円(大人料金)
109シネマズ映画鑑賞料金:1900円
東急線駅構内「しぶそば」:320円(かけそば、もりそば)

となる。これをどれだけ利用するか(平たく言い換えれば毎日東急乗って毎日そば喰って毎日映画見たら)によって、おトク度は変わってくるのであろうが、すごく感覚的に言えば、3日に一回これらの行動をとれば元はとれる。。と思う。
 

Xビジネス開発室が注目したいのは、新規事業を起こすのではなく既存のインフラを組み合わせたこと、新規投資をすることなく「仕組み」で新しい利用形態を喚起している点にある。数行上でくだけた解説をしたが、実際にどの程度受け入れられるか、言い換えると「飽きられずに継続してもらえるか」は未知数である。現段階で東急もそれは承知しており、だからこその「正式サービス開始」ではなく「実証実験」なのである。
(東急専門の乗り鉄や、そばを毎日食べないと死んでしまう人や、テレビの代わりになんでもいいから映画を毎日視る人たちが大挙して押し寄せれば、交通インフラの麻痺や事業の赤字は免れない)

この試みが成功すれば、同様の事業を持つ各鉄道事業者のグループ会社がそれに倣うであろうし、町おこしにも応用されていくことになるであろう。
 

4.その名前、東京交通短期大学

前項までで鉄道事業会社の様々な業態を考察してきたが、鉄道事業者らしい事業はなんといっても鉄道車両の運行であることは間違いない。鉄道事業者は、その鉄道マンシップとビジネス感覚を持ち合わせた人材を求めていることは想像に難くない。では、そこに必要な人材はどのように輩出されているのであろうか。その答えのひとつが、東京都豊島区にある学校法人東京交通短期大学である。

本稿の冒頭でも触れたが、短期大学である。共学であり女子大生のほか男子大学生もいる。というより女子学生のほうが少なく、1952年に開学し、1979年に初の女子学生が入学している。鉄道・交通業界への「登竜門」とも言える伝統校である。
学科は運輸科単科であり、法学、経済学、経営学、観光学、情報学、機械工学、そして航空・船舶・自動車工学までをも学ぶことができる。
卒業後のモデル進路としては、ツアーコンダクター、客室予約係、鉄道・船舶パーサー・車掌、電車運転士、映像カメラスタッフなどが想定されている。
特色として、日本の大学で唯一の鉄道シミュレーターの存在が挙げられる。「クハ455」「クハ205」の運転台があり、ブレーキに連動するエアー音なども発生するというリアルなシミュレーターである。
 

2019年度の全入試合計の倍率は1.4倍。専門性の高い大学であることもあり、2010年度生の一般・社会人入試の倍率は20倍であったという。専門性とともに発想力の豊かな人材が集い、鉄道業界をはじめとする各関連業界に貢献する人材を輩出しているのである。

5.「東京交通短期大学」が「Xビジネスフェス2020in 池袋」に降臨!

本年、令和二年であるところの2020年4月に行われるイベント「Xビジネスフェス2020 in 池袋」に、「東京交通短期大学」がやって来る。同フェスにおいて「鉄道オープンイノベーション」トークイベントを行うのだ。
登壇者は鉄道フォトジャーナリストでもある、東京交通短期大学の桜井寛氏である。鉄道の魅力と鉄道を介したオープンイノベーションを紹介してくれるというのだ。

取り扱うテーマが鉄道交通である。通常のシンポジウムやイベントであれば、幾分堅苦しい内容となっていくであろうが、なにしろ舞台はオープンイノベーションを謳う「Xビジネス」フェスである。「時にはあまりに尖りすぎて、時にはあまりにニッチ過ぎて、時にはあまりに社会からの認知が低すぎて」そのパワーを産業界で充分に発揮できていない、そして「面白い」「熱がすごい」「技術が尖りすぎている」「魅力がありすぎる」、そういうケースの登場を大いに期待したい。

(依藤 慎司)


関連リンク:

学校法人 東京交通短期大学
http://toko.hosho.ac.jp/

Xビジネスフェス2020 in 池袋
https://www.yano.co.jp/xbusiness/fes/