ボーイズラブ市場の定義

本項では、男性同士の恋愛(ボーイズラブ、以下「BL」)をテーマとし、かつ女性をターゲットとしたコンテンツ全般を取り扱う。
具体的には、BLをテーマとした漫画(電子書籍含む)、ライトノベル、同人誌(ただし、同人サークルからユーザーへの直売によって流通しているものや、二次流通品は除外)、ゲーム、DVD、ドラマCD、その他関連グッズ(トレーディングカード、カレンダー等)を対象とする。
ただし、単に美少年・美青年が登場するだけで、特に男性同士の恋愛についての描写がないコンテンツや、男性をメインターゲットとしているコンテンツ(ゲイ男性をターゲットとして想定しているAV等)は除外する。
 

ボーイズラブ市場の客層

2016年9月に矢野経済研究所が実施した消費者アンケートより、「BLオタク」を自認する消費者は日本国内に約74万人存在すると推計された。
「BLオタク」の年代の分布は、アンケート結果では、15~19歳:20.0(22.6)%、20代:36.5(36.8)%、30代:9.4(11.3%)、40代:17.6(14.2%)、50代:8.2(6.6)%、60代:8.2(8.5)%となっており、10~20代が牽引する市場である。注目されるのは、40代が前年より3.4ポイントアップしている点である。
男女比は男性:女性=30.6(17.9)%:69.4(82.1)%と女性の比率が高いことが当市場の特長であったが、男性比率が12.7ポイントアップと急成長している。
BLを愛好する女性を指す「腐女子」という言葉が一般的になりつつあるが、BLを愛好する男性を指す「腐男子」という言葉も一部で使われるようになっている等、男性のファン層も増加傾向にあることが今回の調査からも判明した。
また、今年度より新たに調査項目として加えた「オタク歴」については以下の通り。1年未満がピークで年数が経つごとに減少してゆく傾向となっている。

ボーイズラブ市場の客単価

上記消費者アンケート調査より「BLオタク」を自認する層がBL関連消費に費やす金額は平均で年間13,153円という結果となった。前回と比較すると、1,807円ダウン。

販売価格帯はおおむね、漫画やライトノベルは1冊500~1,000円弱程度、同人誌は1冊300~1,000円程度、ゲームは1本3,000円~8,000円程度、DVD(アニメ・実写共)は1枚4,000~10,000円程度、ドラマCDが1枚3,000円前後となっている。
BLファン層は「脳内で妄想する」、あるいは同人誌の執筆等によって自ら具現化して発信するという傾向が強いとされており、消費に結び付くことなく自己完結してしまうケースも少なくないことから0円が38.8%も存在すると推察される。
コア層を除いては、コレクション的な消費行動は行わず、多額の費用をかけてBL関連商材を買い集めるという行動は比較的少ないとみられ、1ユーザー当たりの単価はそれほど高くないことが指摘できる。また、本市場を支える10~20代の女性の可処分所得は、より上の年齢層の女性や同年代の男性と比べて少なく、一部コア層を除く女性の多くは、ファッションや化粧品等の購入を優先する傾向が強いものと推察される。
こうしたことから、当市場の中では比較的単価の低い書籍やドラマCD等が購入されることが多く、高単価商品が売れることは少ないと考えられる。また、スマートフォンアプリや携帯サイトを通じた無料での作品提供もあり、全体的な消費金額は昨年と比較すると減少している。
 

ボーイズラブ市場の構造

「BL市場」の誕生は、男性同性愛をテーマとした漫画や小説を掲載した女性向け雑誌「JUNE(ジュネ)」(1978年創刊、創刊時は「COMIC JUN」)が創刊された1970年代後半頃と推定される。また、アニメ・漫画・ゲーム等に登場する男性キャラクター同士の恋愛を描いた「やおい系」と呼ばれるジャンルの二次創作物(主に同人誌)が登場したのもほぼ同時期と推察され、「BL」という呼称が使われるようになったのは、1990年代頃からとされる。
特に2000年代頃からBLを扱う漫画や書籍に参入する出版社が増えており、BL専用コーナーを設けている書店も多い。ただし、BL関連書籍を発行する出版社の大半は、一般書籍あるいは男性向けアダルト書籍の発行が中心となっており、総売上高に占めるBL関連の売上高はごく小さいと推察される。
BLジャンルのアダルトゲームやアニメ作品(主にOVA)も存在するが、男性向けコンテンツと比較するとその市場規模は非常に小さい。ゲイを扱ったアダルトビデオは市場に一定量存在するが、大半は男性向けで、「美青年同士の美しい恋愛」を好むBL愛好者が望む嗜好とは異なり、BLのカテゴリに当てはまる作品は少ない。
 
BL関連の小説や漫画をリリースしている出版社としては、以下が挙げられる。
 
㈱リブレ(BL漫画雑誌「MAGAZINE BE×BOY」、「BE・BOY GOLD」、BL小説雑誌「小説b-Boy」BL小説文庫「ビーボーイノベルズ」等)
㈱新書館(BL漫画雑誌「ディアプラス」、BL小説雑誌「小説ディアプラス」、BL小説文庫「ディアプラス文庫」等)
㈱コアマガジン(BL漫画雑誌「drap」)
㈱ジュネット(BL漫画雑誌「コミックJUNE」、「BOY'Sピアス」、「BOY's LOVE」、BL小説文庫「ジュネット文庫」等)
㈱幻冬舎コミックス(BL小説雑誌「ルチル」、「小説リンクス」、BL小説文庫「幻冬舎ルチル文庫」、BL漫画単行本「リンクスロマンス」等)
㈱オークラ出版(BL漫画雑誌「コミックアクア」、BL小説文庫「プリズム文庫」、「プリズムロマンス」、BL漫画単行本「アクアコミックス」等)
海王社(BL漫画雑誌「GUSH」、BL漫画単行本「GUSH COMICS」等)
㈱ふゅーじょんぷろだくと(BL漫画単行本「POE BACKS BABY COMICS」等)
㈱KADOKAWA(BL漫画雑誌「CIEL」、BL小説文庫「角川ルビー文庫」、BL漫画雑誌「エメラルド」)
㈱徳間書店(BL漫画雑誌「Chara」、BL小説雑誌「小説Chara」、BL漫画単行本「Charaコミックス」等)
㈱笠倉出版社(BL小説文庫「CROSS NOVELS」、BL漫画単行本等)
㈱イースト・プレス(BL小説レーベル「アズノベルス」、「Splush文庫」)
㈱二見書房(BL小説文庫「シャレード文庫」)
㈱白泉社(BL小説雑誌「小説花丸」、BL小説文庫「花丸文庫」、BLコミックアンソロジー「花丸漫画」等)
㈱竹書房(BL漫画雑誌「麗人」等)
㈱芳文社(BL漫画雑誌「花音」)
㈱心交社(BL小説文庫「ショコラノベルス」等)
㈱フランス書院(BL単行本「Canna」、BL小説文庫「プラチナ文庫」等)
㈱茜新社(BL漫画雑誌「OPERA」等
 

近年、電子書籍の普及とともに、紙媒体での出版は行わず、電子媒体専門の出版社㈱フューチャーコミックス等が出現してきている。
BLドラマCDの製作・販売を主事業としている事業者としては、㈱モモアンドグレープスカンパニー、㈲フィフスアベニュー等が挙げられる。その他、アニメ関連のCD・DVD全般の販売を行う㈱マリン・エンタテインメントや㈱ランティス、㈱ティームエンタテインメント等もBLドラマCDの制作を行っている。同人誌の販売を主事業とする㈱ケイ・ブックスも「Atis collection」というレーベルでBLドラマCDをリリースしている。
BLゲームの製作会社としては、㈱ビジュアルアーツ(「Spray」レーベル)、㈱ニトロプラス(「Nitro+CHiRAL(ニトロプラスキラル)」レーベル)、㈲ビーアイコミュニケーションズ(「パルミエ」レーベル、「Cyc Rose(サイク ロゼ」レーベル)、㈱ウィルプラス(「郎猫儿」レーベル)、㈱ストーンヘッズ(「PIL/SLASH」レーベル)等が挙げられるが、いずれの事業者も男性向けのアダルトゲームが売上の大半を占めるとみられる。
上記のほか、「裸執事」等で人気を集めているマーダー工房といった同人事業者も少なくない。
 

ボーイズラブ市場のトレンド・トピックス

●「テンカウント」が大ヒット
バレエ・フィギュアスケート雑誌やコミックの出版を行う新書館のディアプラス・コミックスより発売されている「テンカウント」(宝井理人)が当該市場においては異例となる150万部を超える発行部数を記録した。本作品を契機に若い女性層がBLに興味を持つなど、これまでBLに関心のなかった層にも訴求したものと推察される。加えて、フィギュアなどの関連グッズの売れ行きも好調の模様でBL市場の認知度向上に大きくした作品となっている
 

ボーイズラブ市場規模

矢野経済研究所では、2015年度の市場規模は前年度比3.8%増の220億円と算出された。上述の通り、新書館より発行されたディアプラス・コミックス「テンカウント」(宝井理人)の登場によって、ユーザー層の裾野が拡大するとともに、市場規模も拡大したものと推定される。
「BL」という言葉が一般化しつつあり、「腐女子」が市場を下支えするとともに、ライトな層も一定程度取り込みに成功したものとみられることから、2016年度の市場規模についても前年度比1.4%増の223億円と予測する。近年の傾向としては売れる作品は突出して売れるといったことがみられることから、出版業界全体が厳しい局面が続いているにも関わらず拡大するものと予測される。

本稿の詳細データについては、下記調査レポートよりご入手いただけます。

クールジャパンマーケット/オタク市場の徹底研究

関連記事:

腐女子ビジネスを極めたらこうなった -「リブレ」-