同人誌- これほど時代によってイメージが違う言葉もないであろう。もともとは、日本の出版界が産業としての体裁を持つに至る以前、戦前の時代に登場した言葉である。商業ベースの採算など後回しで、同好の士が集まって寄稿した小説や俳句などを文芸同人誌として発行していたのである。
同時に、同人誌は作家や評論家といった文人の交流の場であり、新人作家の登竜門ともなっていた。ここから芥川賞や直木賞などの文芸賞などが創設され、後に出版社に引き継がれていったのである。

 

  1. 同人誌もいろいろあるけど、結局みんなこれが好き
  2. 同人誌市場の構造と市場規模が、これ
  3. 同人誌のブランド -金額には出てこないブランドのポジショニングマップ-(次稿)
  4. その資料、「Xビジネスショートレポート」(次稿)

 

1.同人誌もいろいろあるけど、結局みんなこれが好き

冒頭で「同人誌とは文芸同人誌であった」と書いたが、それがいまではエロくて薄い本へと変貌を遂げており、時代の変遷とともに書籍のほかソフトウェアなどの媒体も出現している。そのジャンルはあらゆるフェチ分野の森羅万象を網羅しているが、人気ジャンルは漫画やアニメ作品の二次創作、オリジナルの漫画や小説などが多い。漫画やアニメの新作で美少女キャラなど登場しようものなら、直後の夏と冬にはさっそく脱がされてしまう。エロ以外にも旅行記や政治風刺などジャンルは本当に多岐にわたるのだが、共通しているのは「商業ベースの採算など知ったことではない、我が道を行くただれた欲望オタク気質」である。

同人誌は、オリジナルのストーリーを漫画や小説にする「一次創作」と既存の漫画やアニメ、ゲーム等を題材にしてパロディ化したストーリーを作る「二次創作」に大別される。二次創作の同人誌の大半は著作権・肖像権を無視したものであり、それを題材にした同人誌を販売することは、法的にいえば限りなくブラックに近いグレーな行為なのである。
なのであるが、作品が同人誌の題材になることは原作の人気のバロメーターであり、また、プロ作家となる優れた人材が同人作家の中から見つかることもあるのだ。そのため、著しく原作のイメージを損なうものを除いて「ファン活動の一環」として、出版社・商業作家が黙認しているのが実状なのである(このあたりの事情は「Ofuse」の回に詳しく既述)。

 

 

同人誌即売会は、小規模のものを含めると毎週末全国のどこかで必ず開催されていると言われるほど頻繁に行われており、年間では数百回の規模で開催されている。即売会イベントのジャンルとしては、参加同人サークルのジャンルを制限しない「オールジャンル」と参加同人サークルのジャンルを絞った「オンリージャンル」がある。オンリージャンルで指定されるジャンルは、一次創作や二次創作の元になる作品、キャラクター、カップリングなど様々である。
主な同人誌即売会は、「コミックマーケット(これがいわゆるコミケ)」「コミックシティ」「コミッククリエイション」、「コミックライブ」、「COMIC1(コミックいち)」「ガタケット」「コミティア」などである。特に夏(8月)冬(12月)の年2回開催される「コミックマーケット」は世界最大規模の同人誌即売会であり、2018年12月に開催された「コミックマーケット95」の入場者数は3日間で延べ57万人であった。
同人誌即売会にもそれぞれの特徴があり、「コミティア」は一次創作のみを扱う代表的な同人誌即売会で、同人誌業界や出版業界では新人発掘の有力な場としても位置づけられている。

 

2.同人誌市場の構造と市場規模が、これ

同人誌の流通ルートは、

  1. 同人誌即売会
  2. 委託販売(実店舗・ネット店舗含む)
  3. インターネットを通じたダウンロード販売
  4. 古書同人誌取扱店
  5. インターネットオークション等
  6. 同人サークルから個人への直販

の6つに大別される。この稿で取り扱う同人誌市場は、「同人誌即売会イベント」「同人誌(中古同人誌除く)取扱店」「同人誌ダウンロードサイト」の3つの流通を介したものとして定義し、売上高を積算して算出している(弊社で推計する市場規模は1.~3.が該当し、4.~6.は除外)。つまり、ビッグサイトで汗だくになって戦った転売ヤーが、その日のうちにヤフ〇クやメ〇カリなどに数倍の値段で出品しているものなども含まれていない。

委託販売の有力事業者は「コミックとらのあな」「アニメイト」「まんだらけ」「K-BOOKS」「メロンブックス」などである。
ダウンロード販売の有力事業者は、「DLsite.com」を運営するエイシス、「FANZA同人」を運営するDMM.comが2大巨頭であり、ほかにも「デジケット・コム」を運営するアットリンクス、「Gyutto.com!」を運営するハブロッツなどがある。ここ数年は価格競争が激化しており、売上は確保しているものの、利益面では苦戦を強いられている模様である。また、リアル店舗を持ち、かつダウンロード販売を行う事業者も増加している。

 

≪市場規模≫

前項で「商業ベースの採算など知ったことではない、我が道を行くただれた欲望オタク気質」と書いたが、同人誌市場の金額的規模は、はっきり言って莫大である。筆者がかつてエロ音楽同人誌の売り子をしていたガメラ館の頃、事件は起こった。とある巨大エロ同人誌サークルの売上金の一部が消えたのである。といっても盗難などではなく、売上金の紙幣をゴミ袋(特大)に入れておいたところ、本物のゴミと間違えられて廃棄されてしまったのだ。当然大騒ぎになったが、当のサークルは「あぁ、そのくらい誤差ですから」とたいして気にしていなかったのである。売れる同人誌はとことん売れ、その売り上げで財を成すサークルも多数存在しているのだ。そのようなサークルが全国各地のイベントにいて、何百のイベントと考えると。。(ちなみに件(くだん)のサークルの「ゴミ袋」は、十数個になっていたとのこと)

思い出話は横に置いておいて、2017年度の同人誌(同人ゲーム等も含む)の市場規模は、前年度比0.3%増の797億円と算出された。その内訳は、即売会が同0.5%増の422億円、委託販売が同5.2%減の219億円、ダウンロード販売が8.3%増の156億円となった。ダウンロード販売は引き続き好調を維持しているが、委託販売が前年度に比べて少なかったこともあり、マイナス成長となった。

そして(2018年7月当時、)2018年度の市場規模を同1.6%増の810億円と予測した。その内訳は、即売会が同0.5%減の420億円、委託販売が同0.5%増の220億円、ダウンロード販売が同8.8%増の170億円としている。

 

 

 

同人誌市場の特性としては、二次創作物が多数を占めることから、漫画・アニメにおいてキラーコンテンツが出ると市場の拡大幅が大きくなる傾向ある。「聖闘士星矢」(1980年代後半頃)、「美少女戦士セーラームーン」(1990年代前半頃)、「新世紀エヴァンゲリオン」(1990年代後半頃)がブームになった際、市場規模が大きく拡大した。
そのほか、同人誌即売会でしか入手できなかった同人誌が、流通チャネルが増加したことも市場の拡大に大きく寄与している。1980年~90年代頃から「まんだらけ」(運営企業:(株)まんだらけ)、「コミックとらのあな」(同:(株)虎の穴)、「K-BOOKS」(同:(株)ケイ・ブックス)など、同人誌取扱店でも入手可能になったことや、1990年代後半頃からダウンロード販売も行われるようになったことなどが理由である。なかでもここ数年はダウンロード販売が好調である。
(この稿続く)

(依藤 慎司)


関連資料:

XビジネスショートレポートVol.2 同人誌市場
https://xbusiness.jp/xbusiness/shortreport-vol2

同人誌市場の実態と展望
https://xbusiness.jp/fanzine/marketing

 

関連リンク:

コミックマーケット公式サイト
https://www.comiket.co.jp/

まんだらけ
https://www.mandarake.co.jp/

コミックとらのあな
https://www.toranoana.jp/

K-BOOKS
http://www.k-books.co.jp/

DLsite.com
https://www.dlsite.com/

FANZA同人
https://www.dmm.co.jp/dc/doujin/